オレ的インド映画2014年度作品ベストテン!!

今年も沢山のインド映画を観ましたが、今回はそのまとめとして、まず「2014年度作品オレ的インド映画ベストテン!!」をお送りしたいと思います。
え?「どうして2014年なの?2015年の間違い?」と思われましたか。実のところ、日本でのインド映画視聴の殆どは輸入盤DVDを頼るしかなく、そして当然のことながらDVDは劇場公開から遅れて発売されますから、これが例えば2014年の年末公開の映画だとすると、その発売はどうしても2015年初頭という具合になっちゃうんですね。だから「2014年公開作」という括りにすると、それはどうしても2015年になって2014年度作品のDVD発売が済んでから、という風になっちゃうんですよ。そんなわけで2015年も終わるというのに2014年度作品の話を始めちゃう、というわけなんです。ややこしくてすいません。
なお今回「ベストテン」とは謳いましたが、ランキングを付けることは避け、とりあえず面白かった作品10本を並べるだけにしました。それはそれぞれの作品の面白さのベクトルが違うので、こっちが上でこっちが下みたいなことがしたくなかったことと、そもそもオレはまだまだインド映画にはド素人なので、あんまり知った口きかないほうがいいな、と思えたからです。こんなド素人のセレクトですが、インド映画に興味をもたれた方の何かの参考にでもなれば嬉しいです。あと、明日は「2015年度公開作品版(暫定)」をやろうと思いますのでお時間に余裕のある方は眺めてやってください。それでは行ってみよう!

■最優秀これはマジ面白かったわ賞 / pk (監督:ラージクマール・ヒラーニ 2014年インド映画)


「ランキングはしない」と最初に言っておいてなんなんですが、2014年公開のインド映画で最も面白く、十分な問題意識に溢れ、そして完成度も高かった作品はこの『pk』を措いて他にないのではないでしょうか。宗教問題というのは日本人にはとっつき難い事ですが、昨今のイスラム教の問題などがニュースで報じらるようになるにつけ、決して無視できることではなくなってきているように感じます。とはいえ、作品自体はムツカシイことなんか全然なく、むしろユーモラスにこのテーマを描いてゆきます。主演のアーミル・カーンも素晴らしかったですね。

こうして展開してゆくこの物語は、思考の実験であり、神の探索であり、人とその生の核心へとどこまでも迫ってゆく、めくるめくような【驚き】と【発見】に満ち溢れた【冒険】として描かれてゆくのである。そしてそれが、小難しい理屈をこねた晦渋なものではなく、宗教と神にまつわる抹香臭いお説教に至ることもなく、一つ一つの疑問と概念を次々とクリアにさせ、それによる知的興奮と認識の刷新に心躍らされるエンターティンメント作品として仕上がっているのだ。pkは無垢であり無知であるがゆえにそのまなざしはどこまでも澄み渡っており、彼の突きつける素朴な疑問に観るものはその都度立ち止まって考えさせられてしまう。これは様々な宗教が混在するインドでしか実現できなかった作品であると同時に、全ての宗教性に言及しているがゆえに大いなる普遍性を獲得しているという稀有な作品なのだ。
神と宗教の本質に迫る2014年度インド映画最大のヒット作『pk』を君は観たか? - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀ギンギンギラギラ賞 / Happy New Year (監督:ファラー・カーン 2014年インド映画)


『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』のシャー・ルク・カーンとディーピカー・パードゥコーン主演、さらに同作監督のファラー・カーンが再び組んで製作されたお祭映画です。ダイヤを狙う大泥棒集団とダンス選手権がミックスされ、インド映画ならではの歌と踊りが大盤振る舞いされ、どこまでもギンギンギラギラにゴージャスで、非常に楽しめる娯楽作品でした。

しかし、今作で何よりも目を奪うのはオープニングとクライマックスに用意されたゴージャス極まりない映像です。メインの舞台となるアラブ首長国連邦ドバイ、贅を尽くした未来的な建造物が立ち並ぶその街のホテルが世界ダンス大会の会場となりますが、そのドバイの都市全てが巨大な祝祭空間と化しているのです。天を貫く幾百のサーチライト、打ち上げられる幾千の花火、目まぐるしく明滅する幾万の電飾、ありとあらゆる色彩が踊り光が瞬き、ダンスミュージックが轟音を響かせながらリズムを刻み、会場をみっしりと埋め尽くす観客たちは熱狂の中で歓声を振り絞り踊り狂うのです。そしてその歓声の向こうに立つ姿は、シャールクでありディーピカーであり彼らの仲間たちです。彼らのまとう圧倒的なオーラは神々しさを通り越し既に神の姿そのものであり、そして観客たちはその宗教的な法悦の中で我を忘れ歓喜するのです。インド映画の醍醐味はその多幸感にあるといわれますが、この『HNY』はまさに溢れんばかりの多幸感にどこまでも特化した作品だということが出来るのです。
踊る大泥棒!?全篇フェステボー&カーニボーなお祭り映画『Happy New Year』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀大ジャンプ賞 / Bang Bang ! (監督:シッダールト・アーナンド 2014年インド映画)


リティク・ローシャン+カトリーナ・カイフ主演により、ハリウッドの娯楽スパイ映画『ナイト&デイ』をリメイクした作品です。『ナイト&デイ』自体楽しい作品でしたが、そこに素敵な歌と踊りを加味させることで、さらにパワーアップした楽しさを味わうことのできる素晴らしい作品でした。なんといっても、ダンス・シーンにおけるリティク・ローシャンの大ジャンプ・シーンが!

物語はごくごく普通の女の子ハーリーン(カトリーナ・カイフ)が謎の大泥棒ラージヴィール(リティク・ローシャン)と出会い、ラージヴィールを追う凶悪なテロリストたちの攻撃に巻き込まれてしまう、といった形で進んでゆきます。映画は無敵のラージヴィールが繰り出す超絶アクションがテンコ盛りとなって観客を楽しませ、さらに最初は「もう勘弁して!」と悲鳴を上げていたハーリーンが次第にラージヴィールに惹かれゆき、成り行きでハーリーンを連れまわしていたラージヴィールもまたハーリーンに恋してしまう、というラブコメ展開が盛り込まれます。この作品でなにしろ見所となるのは主人公ラージヴィールを演じるリティク・ローシャンのその水も滴るイイ男ぶりと、「いったいどうなってんの!?」と驚かされる鍛え上げた肉体美、さらにそのパーフェクトなルックスと肉体から繰り出される華麗なアクション、そして超絶的なダンスの腕前でしょう。いやあリティク・ローシャン、あんまりイイ男すぎて男のオレでも惚れそうですわ…(ポッ)。そんな彼と絡むのがボリウッドでも名うての美人女優カトリーナ・カイフってぇんだからその眼福ぶりはとどまるところを知りません。
ハリウッド映画『ナイト&デイ』をリメイクしたインド版痛快アクション〜映画『Bang Bang !』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀復讐鬼賞 / Ek Villain (監督:モーヒト・スーリー 2014年インド映画)


恋人を殺された男が犯人に復讐を誓うが…というサスペンス作品です。シッダールト・マルホトラ、そしてリテーシュ・デーシュムクが主演。古今東西に復讐の物語は数ありますが、この作品のひとつ抜きん出たところは「復讐は果たして正しいのか?」という問い掛けがそこにあることです。主人公はその逡巡の中で最後に答えを見つけます。

これにより彼は引き裂かれる。復讐と赦しの狭間で彼は苦悶する。だがここでラーケーシュを赦してしまうことで、新たな惨劇が巻き起こってしまうのだ。こうして後半から物語は錯綜し始める。グルにとって、ラーケーシュを赦すことは、それはかつて殺してしまった男への贖罪であり、殺された妻の願いを聞き入れることによる、自らの魂の救済だった。だがその赦しが、更なる殺戮を生み出してしまうのだ。では赦しとはなんなのか?絶対の悪に対して、赦しは相容れないものなのか?すなわち、赦しは、無意味でしかないのか?それでは自分は、また再び殺戮者となって相手の息の根を止め、アーイシャーと出会う前の虚無の中に戻らねばならないのか?グルの中では、これら決して答えの得られない問いが渦巻いていたに違いない。こうして拮抗しあう想いがもつれあい、物語は強大な情念を溶岩のように滾らせながら、圧倒的なクライマックスへとひた走ってゆくのだ。
復讐と赦しの狭間で引き裂かれてゆく男の情念〜映画『Ek Villain』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀大馬鹿映画賞 / Action Jackson (監督:プラブーデーヴァ 2014年インド映画)


インド映画一バイオレンスとターバンの似合う男アジャイ・デーヴガンが、マフィア軍団を有り得ないようなスーパーバイオレンスで叩き潰す、というアクション映画です。まあなにしろとことん馬鹿馬鹿しいストーリー展開とアクションで、【大馬鹿映画】の名をほしいままにした作品でしょう。インドでは評価はかなり低いんですが、オレが大好きだから何も何一つも問題はないのです。

そしてメインとなるアクションが、惚れ惚れするぐらい馬鹿馬鹿しくていい。インドのアクション映画は馬鹿馬鹿しくてナンボ。笑って観られるアクション映画、それがマサラアクションムービーの醍醐味である。アジャイが地球の重力を完全に無視した空中殺法を繰り出すのは当たり前、やられた敵が慣性の法則を無視してぶっ飛んでゆくのも当たり前なのである。アイザック・ニュートン先生がこの映画を観たら高熱を出して臥せってしまうこと必至であり、万有引力の法則も発見されなかったかもしれないぐらいである。しかしここまでならマサラアクションムービーとしてはまだ普通。後半ではなんと二刀流に日本刀を構えたアジャイが障子張りの部屋でザックザックと敵をぶった切ってゆく超展開が待ち構えているのである。さらにBGMは尺八だ…。このあたかもタランティーノ映画の如き何か勘違いしてるジャポネスクが愉快で楽しくて堪らない。ああ…アホアホやん…この段階で既に映画『Action Jackson』は2014年を代表するヒンディー映画に決定したのである。
アジャイ・デーヴガンが演じるウルトラスーパーバイオレンス・ガイが暴れ狂うマサラアクションムービー『Action Jackson』! - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀メッチャ怖かったで賞 / Qissa: The Tale of a Lonely Ghost (監督:アナップ・シン 2015年インド/ドイツ/フランス/オランダ映画)


メッチャ怖かった…とはいってもホラー作品という訳ではありません。それでもポーの怪奇譚のようではあり、しかもそれがインドならではの悪弊によりなにもかもが歪められてしまった世界として描かれてゆくんです。ここまで全く救いの無い話というのも凄まじいものを感じました。『ジュラシック・ワールド』『アメイジングスパイダーマン』といったハリウッド作品でもお馴染みのイルファーン・カーンが主演。

凄まじかった。歪められた狂気と呪われた運命を描くこの物語は、魂も凍えるような異様さに満ち、臓腑を抉る展開とそのあまりの情け容赦の無さに観ている間中鳥肌が止まらなかった。悲劇の代名詞としてシェイクスピアがあるなら、これはまさにシェイクスピア的な「インド悲劇」とも呼ぶべき物語として進行してゆくのだ。たった一つの嘘が次第にあらゆるものを死と破壊へと引きずりこみ、最悪の事態が更なる最悪の事態へと塗り重ねられてゆく。暗黒の咢にじわじわと引きずり込まれるかのような悲劇を見せ続けられながら、しかし決してそこから逃れる術はないのだ。これは、なんと恐ろしい物語なのだろう。そして物語は壮絶な幻想譚として終盤を迎えるのだ。
呪われた運命に翻弄されるある家族の物語〜映画『Qissa: The Tale of a Lonely Ghost』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀失恋旅行賞 / Queen (監督:ヴィカース・ベヘル 2014年インド映画)


婚約を破棄された女の子の傷心ヨーロッパ旅行、と書くとチャラ臭くて抵抗感を覚える方もいるでしょうし、最初は自分もそう思ってたんですが、観終ってみるとその圧倒的な多幸感に溢れた作品構成に度肝を抜かされていました。こんな構成で映画が撮れるんだ、しかもこんなに面白く、と唖然としてしまったのですよ。こういうことをやってしまえるのもインド映画ならではなんじゃないかな。主演のカンガナー・ラーナーウトは日本公開作が『クリッシュ』しかないのが本当に勿体無い素晴らしい女優です。

実のところ、この『Queen』には独特なストーリーとかひねりの効いた展開があるとかいう訳では全くない。「年若い娘の傷心ヨーロッパ旅行」、まさにそれだけなのである。それがなぜこれほどまでに面白い作品となっているのか。まず、この作品のシナリオ構成は従来的な「起承転結」を基にしたものになっていない。即ち、「物語る」という体裁を無理に取ろうとしていないのだ。最初に「婚約破棄」という事件があり、そして主人公はヨーロッパに旅立つ。その後は?その後主人公を待つのは、新しい世界、新しい出会い、新しい友人、新しい体験、といった、主人公の傷心を慰撫しそして立ち直らせ、さらに主人公自身が新しい自分を見つけていく、という目くるめく様な描写が次々と続いてゆくのだ。要するに、ヨーロッパで主人公を待っていたのは大きな幸福の時間であり、そして映画を観る者は主人公と一緒にその幸福体験をたっぷりと共有することになるのだ。そしてそこが、この映画の素晴らしい部分なのだ。
素晴らしい幸福感と解放感に満ちた傑作インド映画『Queen』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀エキセントリックな彼女賞 / Hasee Toh Phasee (監督:ヴィニル・マシュー 2014年インド映画)


エキセントリック過ぎる女性に出遭ってしっちゃかめっちゃかにされた青年が、いつしかそんな彼女を気遣い心を寄せてゆく、というラブ・コメディです。でもそんな彼女は決して単なる変わり者なのではなく、心に大きなトラウマを抱えていたからこその行動だったんです。自分の人生を取り戻したい女性と、そんな女性を愛しなんとか力になろうとする青年との爽やかなドラマでした。シッダールタ・マルホートラ、アダー・シャルマー主演。

こんな具合に、「ちょっと変わった女の子とのラブ・ストーリー」と最初思わせながら、実はその女の子が精神的な問題を抱えていると分かった段階で、物語は奇妙な哀切を帯びたものへと変わっていきます。物語では特定できるような疾患としては描かれませんが、それは疾患そのものをテーマにしているからではなく、心の傷を抱えることになった原因と、それがどう癒されてゆくかを描くのがこの物語のテーマだからなのでしょう。その心の傷とは、高い知性と理想を持ちながら、女にそんなものは必要ないと頭から否定した家族との諍いであり断絶です。ただしそのような状況を描きながら、この物語は決して暗くやるせないものではありません。それはそんな状況になんとしても抗おうとする負けん気とユーモアが彼女にはあったからです。そして負けん気とユーモアがありながらも時として心が折れてしまう、そんな彼女がたまらなくいじらしく描かれるんです。
彼女はエキセントリック〜映画『Hasee Toh Phasee』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀結婚はつらいよ賞 / 2 States (監督:アビシェーク・ヴァルマン 2014年インド映画)


結婚を誓った男女が家族の対立によって窮地に落とされる、といったテーマはインド映画ではよく見かけますが、この作品ではインド南北独特の違いをそこに盛り込むことで面白く見せることに成功しています。ただそれだけではなく、お互いの両親に認めてもらおうとする男女二人のひたむきさを、実に繊細で瑞々しく描くことで魅力的な作品となっているんです。アルジュン・カプール、アーリヤー・バット主演。

しかし、それがいかに旧弊な価値観だろうと、結婚を認められない二人にとっては切実だ。では二人はどうするのか?ここがこの映画の大きな見せ場となる。二人は、無理解な親を無視してしまおう、否定してしまおう、とは考えない。駆け落ちして二人だけで幸せになろう、とは思わない。二人にとって幸福とは、お互いの両親の幸福が含まれての幸福だからだ。こうして二人は、どうにかしてそれぞれの親に理解を得ようと粉骨砕身するのだ。この、ある種の障壁に対して粘り強く地道に取り組んでゆく主人公二人のひたむきさに、自分は大きな感銘を覚えた。あきらめず、悲嘆に手を止めることなく、自分のできることを今やること。ヒンドゥー教聖典『ヴァガヴァット・ギーター』には「常に行為を成せ、その結果を動機とすることなく、それは無為よりも尊い」といった教義が記されているが、この『2 States』にあるひたむきさには、そういったヒンドゥー的な心象が隠されているのかもしれない。素晴らしい傑作だった。
南北インドの無理解と和合〜映画『2 States』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■最優秀夫婦はつらいよ賞 / Shaadi Ke Side Effects (監督:サーケート・チョウドゥリー 2014年インド映画)


『女神は二度微笑む』のヴィディヤー・バーラン主演。夫婦の越えられない溝をコメディ仕立てで事細かに描き、男として「アイテテ…」と反省を促されちゃうような実に秀逸な作品でした。

「女性には3つの顔がある、それは妻・母・女だ」なーんて言葉がありますが、女性は結婚して子供ができると、それまでの恋人・妻の顔からあっという間に母親の顔に切り替えられちゃうというのはよく聞く話ですね。一方男性のほうはなかなか切り替える事が出来ないものですから、相変わらず子供みたいなことばかりやっていて奥さんの変化についてゆけず、そこから夫婦の溝が生まれてしまう。これなんかもよく聞く話ではあります。映画『Shaadi Ke Side Effects』は、まさしくそんな状況にみまわれた夫婦を夫の目線から描き、「妻と今まで通り上手くやっていきたいし、子育ての手助けもするべきだろうけど、自由にもなりたい…あー!俺いったいどうしたらいいんだ!?」と頭を抱える夫の七転八倒ぶりが可笑しいコメディなんですね。
夫と妻の深い溝〜映画『Shaadi Ke Side Effects』【ヴィディヤー・バーラン特集】 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ