今年面白かったエレクトロニック・ミュージックあれこれ

◎アルバム (テクノ/ハウス/フットワーク/ダブテクノ)

■Music for the Uninvited / Leon Vynehall

Music for the Uninvited

Music for the Uninvited

UKポーツマス出身のディープハウサーLeon Vynehallによる1stアルバム。これが非常に繊細かつ技巧的に構築された音世界を表出させており、エレクトロニクス音の狭間にストリングスや鍵楽器、ヴォイスサンプルなどを効果的に配し、それぞれの曲があたかも絵画の様に美しい構図を切り取りながら、同時に物語の無い映像作品の様に感性豊かに構成されているのだ。それでいてソウルフルなディープハウスとして十分に機能している。2014年にリリースされた作品だが、これは実に完成度が高いアルバムだ。 《試聴》

■Folk / Nick Hoeppner


ベルリン・Panorama Barの長年に渡るレジデントであり、かつてレーベルOstgut Tonのマネージャーも務めていたNick Hoeppnerによる初のアルバム。パワフルなリズムと浮遊感溢れるメロディを備え、ジャーマン・テクノならではのサウンドを響かせる安定の良作。 《試聴》

■Burn It Down / Octave One

Burn It Down

Burn It Down

デトロイト・テクノのオリジネイターOctave Oneの7年ぶりとなるフルアルバム。重量級でありながら歯切れのいいリズム、親しみやすいソウルフルなメルディが真っ黒いグルーヴを生み出す良作。 《試聴》

■1983 / Kolsch

1983

1983

KomapktからリリースされたデンマークRune Reilly KölschによるKölschの2ndフルアルバム。美しいメロディ、ノスタルジックでドリーミーなテックハウス・サウンドが並ぶ好盤。Komapktらしい整理整頓された電子音が堪らなく心地よい。 《試聴》

■Practice What U Preach / DJ Roc

Practice What U Preach

Practice What U Preach

フットワーク/ジュークは特別に新しい音だというのではなく、ダンス・ミュージックのフォーマットを今一度プリミティブな方向に揺り戻した音楽ジャンルなのだと思う。特にサンプリング・ヴォイスの執拗な迄のループが楽しい。こういうのもハウス・ミュージック黎明期にはよくあったが、洗練される過程で消滅したスタイルだ。フットワーク/ジュークはそれを再現しながら、より研ぎ澄まされた形として音にしている。 《試聴》

■Tayi Bebba / Clap! Clap!

タイー・ベッバ 【日本独自CD化】

タイー・ベッバ 【日本独自CD化】

2014年にリリースされたClap! Clap!のデビューアルバム。Clap! Clap!はジュークにアフリカン・サウンドとベース・ミュージックを融合させ、これまでのジューク・サウンドとは全く違うアプローチでジューク・サウンドを展開しているのだ。アフリカン・サウンドの開放的で明るいサンプリング・メロディの中に突如としてジュークの凶暴なリズムが炸裂するさまは非常にスリリングである。今後はジュークもこういったハイブリッド化が進んでゆくのだろうが、そういった部分で是非聴いておきたいアルバムだといえるだろう。 《試聴》

■Morning/Evening / Four Tet

Morning / Evening

Morning / Evening

Four Tetのニュー・アルバムは20分ほどの曲が2曲はいった構成で、それぞれ「Morning Side」「Evening Side」というタイトルがつけられている。どちらも非常に穏やかなハウス・ミュージックだが、特に「Morning Side」での中東風の女性ヴォーカルと明るく伸びやかなメロディがとても心地いい。1曲が長いにもかかわらずいつまでも聴き続けていられるのだ。ジャケットに使われている写真はインドのチャンドバオリ遺跡のもの。これは9世紀頃に造られたとされている巨大階段井戸で、インド映画でもたまにお目にかかる。こんなインドなテイストがまた、最近インド脳のオレには非常にマッチする。今回のお薦め盤。 《試聴》

■Coherent Abstractions / ADMX-71

Coherent Abstractions

Coherent Abstractions

90年代からNYアンダーグラウンド・シーンで活躍するAdam XことAdam MitchellがADMX-71名義でリリースしたニュー・アルバム。ダークでインダストリアルなハード・テクノが鳴り響くその音はさすが重鎮の技。 《試聴》

■Walls and Dimensions / Deadbeat

Walls & Dimensions

Walls & Dimensions

ダブテクノのベテラン・アーチスト、Deadbeatの10枚目となるアルバム。いつものぶっとい重低音はそのままに、要所でヴォーカルを配した実に洗練された音となっている。実験性とポップさとが組み合わさった良作。 《試聴》

◎アルバム (アンビエント

■新しい日の誕生 / 2 8 1 4

新しい日の誕生

新しい日の誕生

映画『ブレードランナー』を思わせる勘違い日本語のネオンサインが瞬く高層ビル群をジャケット写真とし、アルバムタイトルが日本語で「新しい日の誕生」。収録曲も「新宿ゴールデン街」とか「ふわっと」とか「ヒアイ(悲哀)」とか日本語読みの曲名ばかりで、製作者はというと「T e l e P a t h テレパシー能力者」と「Hong Kong Express」のコラボ作品だということらしいが、結局日本人なのか日本製なのか皆目わからない。なんだかキワモノめいた感じであるが、しかし内容はというと、これが、いい。非常にエモーショナルなアンビエント・サウンドで、「ヴェイパー・ウェイブ」と呼ばれるサウンド・ジャンルの一つでもあるらしい。確かに都市生活の悲哀や孤独を感じさせると同時に、未来的であり、どこか夢見る様な美しさも兼ね備えてる。それが都市のネオンの毒々しい輝きなのか、ひと時の愛の安らぎなのか、それは分からないけれども、少なくとも、密やかな希望がその曲調から感じることができる。これらがアルバムジャケット、曲タイトルなどのトータルなイメージも動員させながら静かに心に沁みいってくるのだ。得体こそ知れないが、これは名作なのではないか。特に7曲目「テレパシー」の夜明けの様な爽やかな穏やかさ、そしてラスト8曲目の13分にのぼるトラック「新しい日の誕生」のたゆたう水面を想像させるSEと寄せては返す音の煌めきはどこまでも心を開放させてくれる。《試聴》

■Moonbuilding 2703 AD / The Orb

Moonbuilding 2703 AD

Moonbuilding 2703 AD

あのThe Orbによる6年ぶりのオリジナルアルバムはKomapktからリリース。例によってぶわぶわ〜んもにゅもにゅ〜んである。すまんバカな文章で。The Orbはリリース作品なんとなく全部聴いてるけど1作目以降はどうも印象が薄いのだが、このアルバムは妙にハマった。 《試聴》

■L'etreinte Imaginaire / Auscultation

L'étreinte Imaginaire

L'étreinte Imaginaire

まるで昭和歌謡の様なジャケットで一瞬驚かされるアルバムだが、これはアメリカ西海岸を拠点にするインディ・ハウス・レーベル「100%Silk」からリリースされたAuscultationのニューアルバム。AuscultationはGolden DonnaことシンセシストのJoel Shanahanによる別プロジェクトであるらしい。全体的にメランコリックで心安らぐようなアンビエント・ハウスを聴くことができる。 《試聴》

■Woman in the Moon / Jeff Mills

Woman in the Moon

Woman in the Moon

ジェフ・ミルズが今年の2月にリリースしていた3枚組アルバムはフリッツ・ラングの無声SF映画『月世界の女』の架空のサウンドトラック・アルバム。ここしばらく宇宙の彼方へ行ったまま帰ってこないジェフ君の相変わらずの「ピローンポヨヨーン」な宇宙音が鳴り渡るが、これがこれまでリリースしていた宇宙音アルバムとどう違うか、と聞かれると答えに困る。しかし3枚組で聴かされるとこれが結構いいのだ。 《試聴》

◎コンピレーション

■E Versions Vol 1 / E Versions


Mark Eが運営するレーベルMercの人気エディット・シリーズ「E-Versions」からリリースされたコンピレーションCD。1曲目からチャカ・カーンの「I'm Every Woman」をハウス・エディットした曲が始まりこれはもうご機嫌モノ。 《試聴》

■Ostgut Ton | Zehn / Various Artists

Ostgut Ton | Zehn

Ostgut Ton | Zehn

ベルリンを代表するテクノ・レーベルOstgut Tonが設立10周年を記念してリリースした30曲入り(D/L版)コンピ。Ostgut Tonはオレもとても信頼しているレーベルで、これは買い。 《試聴》

■Consider This A Warning / Various


USアンダーグラウンド・レーベルChronicleからリリースされたテクノ・コンピレーション。最新型のアンダーグラウンド・ミニマル・テクノの数々が網羅されこれは聴き応え十分。 《試聴》

◎DJミックス

■Balance 028 / Stacey Pullen/Various

Balance 028

Balance 028

MIX CDシリーズでお馴染みのBalanceによる28作目はデトロイト第2世代DJのStacey Pullen。他のデトロイト勢よりは若干地味に思われるかもしれないが、非常に丁寧にコントロールされたMIXは好感度が高く、オレも以前から好きだった。そして今回のMIXも、いい。Stacey Pullenがセレクトした曲はどれもずっしり重く黒く、派手さはないがズブズブとのめり込んでゆけるグルーヴさに溢れている。やはりデトロイトDJは違うな。 《試聴》

■Fabric 83: Joris Voorn / Joris Voorn

Fabric 83: Joris Voorn

Fabric 83: Joris Voorn

Fabricの83番は既にベテランDJとして認知されているJoris Voorn。アルバムの曲数は20曲となっているが、実は55曲ものトラックを時には5曲同時にミックスしてみせるなどして製作された超絶ミックスアルバム。Joris Voornによってレイヤリングされたこれらのトラックは既に彼によってインスパイアされた別のトラックとして生まれ変わっている。そしてそのどれもがJoris Voorn独特の曙光のような美しさを湛えているのだ。Fabric作品としても完成度が高い。 《試聴》

■Techno 2015 / DJ Van/Various

Techno 2015

Techno 2015

「ガッツリと王道のフロアなテクノ・ミックスは無いものか」とお探しの貴兄にZYX GermanyからリリースされたDJ Vanのその名も『Techno 2015』はいかがでしょう。大箱向けのミックスですがオレこれ結構好きです。 《試聴》

◎リイシュー

■Much Less Normal / Lnrdcroy


Lnrdcroyの『Much Less Normal』はアンビエント風味のビートダウン系ハウスということができるだろう。もともとは2014年にヴァンクーバーの「1080P」から100本限定でリリースされたカセットテープ作品なのだが、これをエジンバラ発のビートダウン系レーベルFirecracker Recordingsからヴァイナル&CDでリイシューされた。このリイシュー版ではカセット版から2曲削除され、その代り新たに13分に渡るビートダウン組曲とも言える曲が追加されている。ちなみにAmazonにあるD/L版はカセット版のもの。自分はCDで購入したが、ジャケットはFirecracker Recordingsならではのスペーシーなビジュアルに差し替えられており、個人的にはこちらのジャケットのほうがアルバムの雰囲気を伝えていて良い、と思ったな。 《試聴》