【インド名作映画週間その2】『Amar Akbar Anthony』『Deewaar』

■固い絆で結ばれた、俺たちインドの3兄弟!〜映画『Amar Akbar Anthony』

Amar Akbar Anthony (監督:マンモーハン・デサイ 1977年インド映画)


悪党のたくらみにより一家離散してしまった父母、そして3人の兄弟が時を経て再び巡り合い、最後に3兄弟が悪党を成敗しに行く、という痛快娯楽作です。そしてこの3兄弟の名前となるのがタイトルのアマル(ヴィノード・カンナー)、アクバル(リシ・カプール)、アントニー(アミターブ・バッチャン)、固い絆で結ばれた俺たちインドの3兄弟!というわけなんですな。ちなみにそれぞれの名前はヒンドゥー教徒イスラム教徒、キリスト教徒のものだということらしい。3つの宗教が合体しているわけですからこれが強力じゃないわけがありません。
離散した家族はまず父ちゃんが行方不明、母ちゃんが失明、3兄弟は物心付く前に引き離され成長したお互いの顔が分からない、という設定になっていて、彼らが知らず知らずに出会いお互いの素性を知ることになる、というのがこの物語のミソなんですが、なんだか全員もとから近所に住んでいたようにしか見えなくて、それが今になって初めて「あなたは僕のお母さん!」「あんたは俺の兄弟!」とかやりあっているのがなんだかちょっと可笑しかったりします。そもそも悲惨な運命から始まる物語なのに、中盤は3兄弟のヤンチャぶりやら恋愛模様やらがこれでもかと描かれ、それぞれの個性を印象付けるんですが、あんまり脱線しすぎるので「お前ら悪党への復讐忘れてないか…」と若干不安になるのも確かです。
そしてやっと後半、彼ら家族を不幸に追いやった悪党を特定し、鬼ヶ島に向かう猿と犬と雉の如く悪党の住処へと乗り込む3人なんですが(ちょっと待て桃太郎はどこだ)、この時も変な変装して登場し、「ア〜マ〜ルアクバ〜ルアントニ〜」という耳について離れない主題歌と共に歌ったり踊ったりしつつ暴れるものですからもう訳が分かりません。こんな具合に親の愛、兄弟愛、勧善懲悪とインド映画らしいテーマが散りばめられた傑作でした。それにしても↑に挙げたポスター画像、なんかポッカコーヒーっぽくない?(特にアミターブ!)

■善と悪の道に分かれた俺たちインドの2兄弟!〜映画『Deewaar』

Deewaar (監督:ヤシュ・チョプラ 1975年インド映画)


『Amar Akbar Anthony』が固い絆で結ばれたインド3兄弟を描いた物語だとすると、この『Deewaar』は善と悪という別の道を歩んでしまったインド2兄弟の物語となります。二人の兄弟の名はビジャイ(アミターブ・バッチャン)とラビ(シャシ・カプール)。労働組合長だった二人の父は、会社に脅され従業員に不利な条件を呑んでしまったことに呵責を覚え失踪、二人は極貧の中、母に守られ成長してゆきますが、ビジャイは黒社会に足を踏み入れ、ラビは警察官へと、全く違う人生を歩んでしまうんです。
しかしビジャイが悪の道に入ったのは、父を脅した資本家と、父に汚名を着せて攻め立て、さらにその息子である彼に「泥棒の息子」という入れ墨を彫った愚か者たちへの怒り、即ち汚れきった社会への怒りからだったんですね。さらに金を儲けて苦労し通しだった母へ良い暮らしをさせたい、という愛情からでもありました。二人の兄弟が善と悪に分かれて対立するというシナリオはハリウッド映画や韓国映画でもありそうなものですが、この『Deewaar』が一味違うのは、二人の間に「母」という強烈な情緒の中心が存在しているという部分です。
ビジャイがマフィアの一員と知った母親はなんとかしてビジャイに足を洗わせようとし、ラビにはビジャイを逮捕しないように働きかけるのです。設定だけ取り上げるとハードでダークな物語となってしまう所を、この「母の愛」により、物語は非常にエモーショナルなうねりを生んでゆきます。この作品もまた、母の愛、兄弟の愛を中心に描いた、インド映画の王道的なテーマを持つ作品だということが出来るでしょう。そしてなにしろ、マフィアとして生きるアミターブのアクション・シーンが格好いいんですね。またこの作品は1981年にラジニカーント主演で『Thee』というタイトルでリメイクされています。2004年にはアミターブ・バッチャン主演で同じ『Deewaar』というタイトルの映画が製作されていますが、こちらの内容は別物です。