死を宣告された詐欺師の最後の大仕事〜映画『Bluffmaster!』

■Bluffmaster! (監督:ローハン・スィッピー 2005年インド映画)


プロの詐欺師が自分の稼業を恋人に知られてフラレた挙句、余命幾ばくもないと宣告され、最後の大仕事に取り掛かるが…という2005年に公開されたインド映画です。詐欺師役をアビシェーク・バッチャン、その相棒をリテーシュ・デーシュムク、さらに詐欺師の恋人役としてプリヤンカー・チョープラーが出演しております。

《物語》ロイ(アビシェーク・バッチャン)はプロ級の詐欺師だったが、恋人シミー(プリヤンカー・チョープラー)との結婚式に訪れていた過去のカモに正体を見破られ、結婚は御破算、シミーにもフラレてしまう。落ち込むロイはたまたま出会った駆け出しの詐欺師ディットゥー(リテーシュ・デーシュムク)を慰みに子分にし、詐欺の手口を教授する。そんなある日眩暈を起こして倒れたロイは、脳腫瘍により余命幾ばくもないと宣言される。ロイは最後の仕事として、かつて子分であるディットゥーの家族を騙し不幸に陥れたマフィアの男チャンドルー(ナーナー・パーテーカル)に大掛かりな詐欺を働くことを計画する。

インド映画の詐欺師の物語というとアビシェーク・バッチャン&ラーニー・ムカルジーの詐欺師カップルをコミカルに描く『Bunty Aur Babli』、ランヴィール・スィン&アヌシュカー・シャルマーのラブロマンス展開がある詐欺師映画『Ladies vs Ricky Bahl』を思い出しますが、この『Bluffmaster!』はきっちり犯罪ドラマとして一人の詐欺師の最後の人生を追ってゆきます。コメディ要素はリテーシュ君をはじめとした脇にまかせ、アビシェーク自体は映画の間中常にクールな犯罪者として立ち回ってるんですね。いつも低い声でゆっくりと喋り、喜怒哀楽を表情に出さず、的確に黙々と犯罪計画を遂行してゆくんです。この映画でのアビシェークはヒップ・ホップなサウンド・トラックの似合うダーティーな黒っぽさに満ち溢れているんですね。映画もスタイリッシュにまとめられておりその辺はそつがありません。

ただどうも、観ていて気取りすぎかな、といった感じは否めません。映画全体もハリウッド映画みたいな小奇麗さはあっても、逆にインド映画じゃなくてもいいかな、という気すらします。やはりどうも臭みが薄くてエモーショナルさに欠けるんですよ。この映画のアビシェーク・バッチャンを観ていても、悪くはないんですがそろそろ『Dhoom』にみたいに血管ブチキレ気味にヒートアップしたり『Dostana』みたいに軽やかにゲイ演技したりしないかなあ、とか期待しちゃうんですね。まあこれまでシリアスな役も当然演じていますから、これは個人的な勝手な偏見です。プリヤンカー・チョープラーも出番が少ないせいでしょうか演技の良さを見せるまでには至らず、これも勿体ない気がしました。ただしリテーシュ君の汚れたチンピラぶりは板についていて、これは安定の安心感でしたね。

そんなこんなで「ちょっと退屈かなあ…」と思いながらクライマックスを迎えたんですが、なんと。この映画、ラストで「驚愕の」と言っていいほどのとんでもない展開を迎えるんです。その驚愕ぶりはある意味先ごろ日本で公開され好評を博したインド・サスペンス『女神は二度微笑む』を思わせるような急転直下ぶりなんですよ!もうオレ、「聞いてねーよ!」と口をあんぐり開けて観てしまいましたよ。詐欺師の映画を観ている観客自身が詐欺に遭う、といったところでしょうか。そういえばハリウッドのとある名作詐欺師映画でもこんな「騙し」があったなあ、とか思いましたが、あの映画よりも、あのハリウッド有名監督あの隠れた名作(リンク先でネタバレしますので知りたくない方は見ないように)に構造がそっくりなんですね。油断していたせいもありますがこれには本当に驚かされました。あのラストを体験するためだけでも観てもいい映画かもしれないですね。

http://www.youtube.com/watch?v=BJLJk3IOOwg:movie:W620