惚れた女性はビッチでガサツでガラッパチ!?〜映画『Tanu Weds Manu』

■Tanu Weds Manu (監督:アーナンド・L・ラーイ 2011年インド映画)


お見合いで一目惚れした相手は、実はビッチでガサツでおまけに恋人までいるとんでもない女だった!?という2011年公開のロマンチック・コメディです。ビッチなヒロインに『Queen』のカンガナー・ラーナーウト(ヒューヒュー!)、彼女に振り回されて大弱りの男性をマーダヴァンが演じております。実はこの作品、2015年に続編『Tanu Weds Manu Returns』が公開されており、この続編が観たくて最初に正編を観てみることにしたんです。

《物語》ロンドンで医者を務めるマンヌー(マーダヴァン)は両親の希望でインドに帰国し見合いをすることになった。彼は相手の女性タンヌー(カンガナー・ラーナーウト)と結婚を決めるが、しかし彼女はガラッパチな性格の上に酒タバコは当たり前、彼氏の名前の刺青までしており、さらにその彼氏と結婚するからあんたとは無理だね!と言い放つ。一度は結婚をキャンセルしたマンヌーだったが、しかしタンヌーの破天荒さにすっかり魅せられ、想いをつのらせてゆく。そうしているうちにもタンヌーはボーイフレンドのラージャー(ジミー・シェールギル)と婚姻届を出しに行くことになり、マンヌーはその証人として立ち会う破目になってしまうのだが…。

地道な人生を歩み物静かで落ち着いた男であるマンヌーと、自由闊達でいつも常識はずれの行動ばかりとる女タンヌー。知的で品行方正なマンヌーと、ガサツで直情的なタンヌー。こんな水と油みたいに相反する性格の二人が、果たして恋に落ちるのか?というのがこの物語です。確かに男女というのは、相手に自分に無いものを見出すことによって恋愛に発展するということもあるのですが、しかしこの二人、傍から見ていても相性がいいとは全然思えないんだよなあ…。しかしこの作品ではまるで力技のように二人を引き合わせる物語を展開しようとします。なにしろマンヌーは地道なだけあって倦まず弛まずタンヌーに接し、そしてタンヌーは面白味のない男と分かっていつつ、そんな彼の誠実さにふと心を奪われたりするのです。いやあ、男女の仲って理屈じゃない不思議さがありますからねえ…。

こうした、「恋愛ドラマの定石」を徹底的に外そうとしているところにこの物語の面白さがあります。そして同時に、この作品は「ヒロインの定石」をも徹底的に壊しているんですよ。ヒロインとなるタンヌーは通常のインド映画のヒロインとしてはまず考えられないような奔放な女性です。酒タバコは当たり前、性格は常識外れを通り越してもはや支離滅裂、態度はガサツでガラッパチ、ちょっとヤクザな彼氏がいるうえに、その彼氏の名前のタトゥーまで彫っている始末。破天荒という言葉そのままの女性なんですよ。しかしふと考えてみると、これは”男の願望”に縛られないリアルで自分らしく生きる女性の姿であり、それを極端な形で演じて見せた、ということなんですね。そういった極端さを提示することで、この物語はフィクションという”仮構”ならではの面白さを醸し出します。

そしてそんな女性がインド映画に登場してしまう、というのがなにしろ新しく、画期的に思える作品でもあります。この役柄に全く違和感のないカンガナー・ラーナーウトの演技は拍手喝采ものといえるでしょう。一方、マンヌーはどうでしょう。彼はボーイフレンドとの結婚に決まったマンヌーへ、それが不可能な恋と知りつつ付き従ってゆきます。マンヌーとボーイフレンドが結婚登記所に結婚届を出す際に証人になったり、結婚式の衣装選びにつきあったりしているんです。なんだか信じられないようなお人よしですが、「想いの叶わなかった相手の結婚を手伝う」というのはインドではよくあるようで、例えば映画『Raanjhanaa』(レビュー)でもそういった展開を見ることができます。例え想いが叶わなくとも一度惚れた相手には誠心誠意尽くす。そんなマンヌーの態度に、タンヌーは徐々に惹かれてゆくのです。

という訳で山あり谷ありの展開の果てに大団円を迎えるこの物語なんですが、マンヌーとタンヌーの二人はどうしたって水と油、本当に大丈夫なのかなこの二人?と疑問が沸きまくること必至なんですよね。そしてこの後の顛末は続編『Tanu Weds Manu Returns』で描かれることになるんですね。次回レビューします!