それは「シャーッ!シャーッ!」「パクッ!パクッ!」だったッ!?〜映画『ジュラシック・ワールド』

ジュラシック・ワールド (監督:コリン・トレボロウ 2015年アメリカ映画)


『ジュラシック・パーク』シリーズ最新作『ジュラシック・ワールド』観てきました。基本的に「シャーッ!シャーッ!」「パクッ!パクッ!」な映画でしたね。
あれやこれやの登場人物が出てきてあれやこれやの人間関係やら物語が描かれはしますが、これら登場人物も物語もとことんどうでもいい構成になっていて正直かったるかったっすね。まずガキ二人は可愛げがねえしヒロインは魅力に乏しいし他の登場人物はロボット程度の人格しか与えられてねえし、その他大勢はそもそも「食い殺され要員」としてしか存在を許されてねえし、まともに描かれてたのはラプトル調教師のオーウェン・グラディぐらいで、まあこいつも言ってみりゃあマッチョな超人だから、どんな危機に陥っても「どうせどうにかなっちゃうんでしょ」程度の緊張感しか生まないんですよ。
そもそもシナリオが噴飯ものの雑さなんですよね。最凶ハイブリッド恐竜インドミナス逃走の一件だって、「監視カメラに映ってない!」とかいう所から始まりますが、GPS付いてるっていうんなら次にそれ確認しとけばこんなことにならなかったわけじゃないですか。実際に逃走してから「GPS使え!」ってなーんじゃそりゃ、という。安全管理・危機管理にしたってメチャクチャで、「インドミナスこーんなおっきくなっちゃったから防壁持つか心配っす」とかって、いやそれ大きくなる前に想定しろよ、って感じで。なんなのこの後手後手感?
だいたい1〜3作であんなに死人を出した施設が再建できるっていうのが謎で、オレなんかは最初「1〜3作はなかったことにして物語られるんだろうな」って思ってたぐらいですよ。で、再建するならするで、相当の安全基準を設けたり従業員のモラルの管理をするはずじゃないですか。あと現運営側のマスラニ社と買収されたとされるインジェン社の関係がよく分かんなくって、こういう造反分子の存在ってどうして許しておけるのかなあ、社内監査とかどうなってんのかなあとか思う訳ですよ。
クソ可愛くねえガキどもが避難勧告無視してジャイロスフィアで危険地帯に出てしまうのも、いやこういうことがあるわけだから緊急時にはオートで呼び戻すとかって設定無いの?って考えちゃいますしね。あと後半、まだ調教程度が未知数なラプトルをインドミナス討伐に投入するっていうのも、単に危険が増すだけだろ、と思ってたらやっぱり危険が増しちゃいましたあって、もうオイオイ…という気分にさせられましたよ。大パニックになった2万人だかの入場客の扱いだってこういった時の危機管理マニュアルねーんだこの企業…と思わせられましたが、まあきっと【想定外】で全部済ませられちゃうんだろうなあ!どっかの国の原発みたいっすね!!
まあこれら【想定外】の大元となったのは遺伝子学者のセンセが暴走した結果として描かれますが、このやりとりというのが「なんでこんなとんでもないもん作っちまったんだよ!」「だってアンタ作れって言ったもん!ボク悪くないもん!」というなんかもうガキの喧嘩じみたものでゲンナリさせられます。
っつーわけでなにからなにまで杜撰な管理のテーマパークで、杜撰だからこそエライことになってそれを楽しむって映画なんですが、どっちにしろ恐竜には罪はねーわな。ここで思いだすのは1作目の「生命なんてそんな管理できるもんじゃないっすよ」という考えで、1作目はそれがあったからこそ「現代に生み出された恐竜」という存在の神秘と崇高さが描かれてましたが、この作品では単に「逃げた猛獣が全部悪いんだからぶっ殺せ!」でしかないんですね。こうしてこの映画の興味は結局のところ「早くこいつらみんな食い殺されねえかなあ」のみへと行き付く訳ですよ。
というわけで始まりました恐竜の皆さんたちによる人間の大踊り食い大会!あっちでパクッ!こっちでガブリッ!あっちでシャーッ!こっちでグオーッ!
いやあ次々ににんげんが食い殺されてゆきますねえ、楽しいですねえ、楽しいですねえ。
こういった具合に、いわゆる【アトラクション・ムービー】としてはきちんと機能していたし、楽しめるものにはなっています。と同時によく出来た【アトラクション・ムービー】以上でも以下でもない作品です。だから物語としては「もやっとする所もあったがスピルバーグの真価を見せ付けた1作目」には遠く及ばないし「なんだかくどくなった2作目」にも「設定の破綻している3作目」にも負けています。そもそもが1〜3作を切り貼りしたモザイクみたいな出来でしたねこの作品は。あ、でもお子様や家族連れにはいい作品だと思いますよ、そもそもマーケットはそこだと思われますから。