ゴッドファーザー・オブ・ソウル、JBのファンクに酔い痴れろ!〜映画『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』

ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜 (監督:テイト・テイラー 2014年アメリカ/イギリス映画)


JB! JB! JB!
ソウル/R&Bの世界においてジェームス・ブラウンはなにしろ別格だ。実の所ソウル・ミュージックのことはそれほど詳しくないし、有名アーチストの代表作をおさらい程度に聴いたことがあるだけのオレではあるが、JBの音楽だけは一聴して「これは違う」ということぐらいは分かる。JBの音は突き刺さってくるようなアグレッシヴさに満ち、シリアスかつヘヴィであり、そして抜群にグルーヴィーなのだ。かつて同じ感覚をジャズにおけるマイルス・ディビス、レゲエにおけるボブ・マーレーに感じた。彼らはジャンル・ミュージックを飛び越えた遥かなイノベーターとしての資質を兼ね備えている。それは革新者であり革命家である。それは孤高の天才である。映画『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』はそんな"ゴッドファーザー・オブ・ソウル"、JBの半生に迫るセミ・ドキュメンタリー映画なのだ。

映画は錯乱して散弾銃をぶっ放し、警官隊に追われる後年のJBの様子から始まる。そして父母に捨てられ一人で生きざるを得なかった極貧の少年時代、ボビー・バードと知り合いメキメキとその才覚を現してゆく黎明期、飛ぶ鳥を落とす勢いで実力と人気を勝ちえてゆく最盛期、仲間とのトラブルに見舞われその人生に陰りが見え始める壮年期とが描かれてゆく。それらJBの半生を通し、JBが成しえたもの、そして失ったものに迫って行くのがこの作品となる。しかしそういった自伝的な物語展開はこの作品の魅力の半分でしかない。JBの人生に興味の無い方にはそれはどうでもいいことかもしれない。この作品が真に輝き渡る魅力を見せるのは、映画の間中鳴り止まないJBの数々の名曲と、それを完全に再現して見せる音楽パフォーマンス・シーンの数々なのだ。もしあなたがJBのことを何も知らないとしても、これらJBの生み出した音楽のパワーと映画の中で再現された音楽パフォーマンスにはきっと心踊り胸震え両足は知らずにステップを踏んでいるだろう。

ここで驚かされるのはJBを演じるチャドウィック・ボーズマンの完コピといってもいいほどのJBへの成り切りぶりだ。顔つきこそは違うけれども、仕草や表情、ポーズのとり方はもとより、その声はJBそのものとすら思わせる。さらに目を見張るのがパフォーマンス・シーンだ。ここではチャドウィック・ボーズマンのみならずステージに登場するミュージシャンの動きまでもがJBのステージを完璧にコピーしてみせる。予告編を観た後にYouTubeでJBのオリジナル・パフォーマンスを探して観てみるといい。そしてこれにより、再現とはいえ、映画の中でJBの白熱のパフォーマンスの一端を体験できるというわけなのだ。確かにこれは映画というまがい物かもしれない。しかし、そこにはJBのソウルがしっかりと宿っていることに気付かされるはずだ。

JBだけでなく、JBの盟友ボビー・バードの存在も忘れてはならない。JBが天才だとしたらボビー・バードは名を成したミュージシャンとはいえごく普通の人間だ。このボビー・バードの存在があるからこそ、破天荒に過ぎて嵐のように周囲の人間を巻き込んでゆくJBを、平凡な人間の視点から俯瞰することを可能にしているのだ。それは『アマデウス』における天才作曲家モーツァルトと凡才サリエリとの関係に似ているかもしれない。ボビー・バードはサリエリのように嫉妬心を持ったり毒を盛ったりはしないが、JBによってどこまでも翻弄され、その心を掻き乱されてゆく。JBはその情念を音楽の形でどこまでも発露してゆくが、ボビー・バードはその情念をどこまでも押し殺してJBに付き従う。この対比が映画の物語に陰影を与えているのだ。

JBの天才と絶対の権力振りは、ある意味部族の族長やシャーマンに近いものがあるのかもしれない。共同体の絶対君主として君臨し畏敬の対象となる彼らだが、そこには言葉や理屈ではない強大で圧倒的なパワーが存在し、それが他をひれ伏せさせるのだ。JBの場合それは音楽のパワーだ。人々を熱狂させ忘我と法悦を体験させるJBはそれこそシャーマンであり、そこで国籍も人種も関係なく聴く者の心を鷲掴みにし、そしてJBのファンク帝国の臣民として迎え入れるのだ。JBがアメリカという法治国家で何度も逮捕されているのは、実はJBの帝国におけるルールにそれがそぐわないからである。そんなもの普通は許されないし、いたとしたらマフィアぐらいなものだが、だがそれが可能かもしれないと感じさせてしまう凄み、それこそがJBの持つパワーなのだ。音楽の熱狂が全てを凌駕してしまう瞬間、『ジェームス・ブラウン〜最高の魂(ソウル)を持つ男〜』はその瞬間をパッケージすることに成功した映画なのだと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=JH0UJoymS6o:movie:W620

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