失踪した夫を探しにインドに発った女を襲う戦慄のサスペンス・スリラー!〜映画『女神は二度微笑む』

■女神は二度微笑む (監督:スジョイ・ゴーシュ 2012年インド映画)


行方不明になった夫を探しにイギリスからインドに渡った女性が、迷宮のように入り組んだ謎に取り込まれてしまう、というインド産のサスペンス・スリラーです。

舞台はインドのコルカタ。冒頭、100人に上る犠牲者を出したコルカタ地下鉄毒ガス事件が描かれます。それから2年後、ロンドンから一人の妊婦がコルカタ空港に降り立ちます。彼女の名はヴィディヤー、仕事でコルカタに訪れたまま失踪した夫を探しにやってきたのです。地元警察のラナの協力のもと夫の足跡を辿るヴィディヤーでしたが、夫が宿泊したとされるホテルにも、勤めるはずだった会社にも、彼のことを知る者も、本人の記録すら存在しないんです。その代り現われるのが「ミラン・ダムジー」という名前です。この男が何かの手掛かりになるかと調べ始めたヴィディヤーとラナの元に、インド諜報部の男が現れ、「捜索は中止しろ」と言い放ちます。その頃同時に、ヴィディヤーの捜索に関わった者たちが次々と殺されてゆき、彼女にもその魔の手が迫りくるのです。

ガチです。歌も踊りもなく122分というインド映画にしてはタイトな上映時間の中にみっちりと緊張感を詰め込んだガチなサスペンス・スリラーです。インドのサスペンス・スリラーというのも初めて観ましたが、それがこれだけ完成度が高いというのにもうならされます。映画はヴィディヤーと警察官ラナが、少ない情報から一人の男を探し回るという、探偵推理物語として進行してゆきます。しかし探索を経れば経るほど謎は深まり、国家ぐるみの不可思議な陰謀・隠蔽工作がそこに関与していることがほのめかされ、遂には殺し屋までが登場して冷酷な殺戮が進行してゆきます。さらに冒頭で描かれる地下鉄毒ガス事件がヴィディヤーの夫探索とどう関係してゆくのか殆ど描かれず、観る者もまたヴィディヤーと一緒に事件を推理してゆくことになるんです。果たしてヴィディヤーの夫はどこにいるのか、ミラン・ダムジーとは誰か、国家諜報部はなぜ捜索を中止させようとしているのか、そしてヴィディヤーはなぜ命を狙われるのか。コルカタで今、何が起こっているのか。謎が謎を呼び、サスペンスはいやが上にも高まってゆきます。

そしてこの物語のもう一つの主役となるのがインド、コルカタの街です。インド3番目の人口を誇るコルカタは、インドの他の都市に負けず古いものと新しいものの混在する喧騒と雑踏に満ちた街です。ロンドンからやってきた主人公の目には、このコルカタの街が混沌の支配する禍々しい魔都のように思えたでしょう。折りしもドゥルガー・プージャーと呼ばれるコルカタ最大の祭が催されており、その異界感はなお一層高まります。こうして、それまで知る世界とかけ離れた様相を見せるインドの街に放り込まれた主人公の、異邦人としての不安が物語をさらにスリルに満ちたものにしてゆきます。主人公ヴィディヤーを演じるヴィディヤー・バーランは既婚女性という役柄から落ち着いた魅力を垣間見せ、彼女に協力する警官ラナ役のパランブラタ・チャットーパーディヤーイはひ弱で頼りなさそうなルックスながら非常に情に篤い男を好演します。そして最初はヴィディヤーをピリピリさせていたコルカタの人々が、実はとても人懐こく暖かい人々であることも作品では描かれてゆきます。郷に入ればコルカタは決して禍々しい魔都というわけではないんです。

さらにこの映画、クライマックスに全ての予想を裏切る驚愕の展開が待ち構えているんです!クライマックスシーンでのオレの反応→「え?え?え?…うあああああどういうことだこれええええ!!?」…いやあ、まさかこんなことだったとは…全く想像つきませんでした。しかし物語を遡ると全てに伏線が張ってあったのですよ!凄いです、凄まじいです、心底驚かされました。インド映画としてはもちろん、サスペンス・スリラー作品として第一級の作品としてきっとこの作品は語り継がれることでしょう。またしてもインド映画の恐るべきポテンシャルを見せつけられた思いです。

(※このレヴューは昨年7月16日に更新した『Kahaani』のエントリーを日本公開に合わせ若干内容を変更して更新しました)
http://www.youtube.com/watch?v=JHMESCB_-UQ:movie:W620