北極海上の謎の研究施設を巡る冒険活劇〜『アイス・ハント』

■アイス・ハント(上)(下) / ジェームズ・ロリンズ

北極海を潜行中の米海軍調査潜水艦が、最新鋭ソナーで浮標する氷島の内部に廃棄された基地らしきものを発見した。モニタには多くの人間の死体と、何物かの蠢く影が映り込んでいた―。2か月後のアラスカ。元グリーンベレーで野生動物監視員のマットが、攻撃を受け墜落したセスナから新聞記者のクレイグを救出。クレイグは北極の米軍基地オメガへ取材に行く途中だった。マットは別れた妻とともに、謎の追撃者を振り切り記者をオメガへ送り届けようとするが、そのとき北極では恐るべき事態が出来していた―。
“グレンデル”という伝説の巨人の名が付けられた基地の恐るべき正体と、そこに込められた暗い野望の姿が徐々に明らかになり、北極は風雲急を告げる。マットとその元妻ジェニファー、グレンデルに魅せられた科学者たち、新聞記者のクレイグ、ロシア海軍提督ペトコフ、デルタフォース、そして“生きているはずのない者たち”…。それぞれの人生と人類の未来を懸けた極寒の闘いは驚きのクライマックスを迎える―。冒険小説の新たな巨匠が企みの限りを尽くして描き出す怒涛のエンタテインメント!

ジェームスロリンズの『アイスハント』、1年前に買ったきり積ん読になっており、そもそもなんで買ったのかすら覚えておらず、どうしようこれ、と積ん読延長しかかっていたんですが、やっと重い腰を上げて読み始めると、あにはからんやこれがすこぶる面白い。うーむ読んでおいてよかった。
お話はザックリ言うと北極海上の氷島(氷山以上にデカイので氷島)で発見された謎の秘密研究施設を巡り、アメリカとロシアがドンパチを繰り広げるというもの。しかもこの研究施設、中は死体だらけ、さらに怪しげな実験を行っていた跡があるばかりか、あるトンデモナイものが"存在"していた!という訳なんですな。そしてこの紛争に、アラスカで自然監視員をやっていた主人公と、保安官である元妻、その他その他が巻き込まれてしまうんですよ。
もうなにが凄いってこのお話、冒頭からアクション・アクションとアクションの乱れ撃ち。アラスカでの銃撃戦から始まり小型飛行機による追跡・逃亡劇、秘密研究施設では恐ろしい謎の存在が調査員たちを屠り、ロシア原潜の艦長は密かに世界を滅亡させる破壊兵器を持ち込み、冷徹なロシア兵がアメリカ人調査員たちを蹂躙したかと思うと、お次はデルタフォースが乗り込んでド派手な戦闘を繰り広げちゃうといった感じで、それを全くだらけさすことなく次から次へと描写してゆくんですね。
それと併せ、この基地はいったいなんなのか?ロシアはなぜ躍起になってこの基地を隠蔽しようとしているのか?さらに、基地に蠢く謎の存在はいったい何なのか?という謎要素も散りばめられ、読者にグイグイ読ませてゆくんですよ。しかしこの物語を読ませるものにしているのは、主人公を始めとする登場人物の、人間関係、そして彼らの心の底にあるもの、それらが情感豊かに描かれている部分なんですね。この巧さには舌を巻きました。
ただマイナス要素もあって、まずこの現代に隠密裏とはいえアメリカとロシアが派手にドンパチやっちゃうのはリアリティがないし、世界滅亡兵器を持ち込むロシア原潜艦長の動機が意味不明だし、研究施設にいる"謎の存在"も、いってしまえば「トンデモ」の領域で、この辺、一旦シラケちゃうと物語をつまらなく感じる方も出て来るとは思います。オレも若干シラケました。だからもし読まれるのであれば、この作品は「細かいところは乱暴だがアクションは迫力たっぷりのB級作品」と納得づくで読まれると良いかと思います。
逆に、こういったリアリティの薄いB級要素が綿密に絡み合いながら物語を盛り上げているのも確かで、このお膳立てがあることによって様々な危機的なシチュエーションと血沸き肉躍るアクションが盛り込まれることになる、という訳なんですよ。スカッ!と楽しめる冒険活劇を読みたい方にはお勧めしたいですね。それにしてもジェームズ・ロリンズ 、全く知らない作家だったんですが、こうして読んでみると非常に技巧に優れた冒険小説作家なんですね。おみそれしました。

アイス・ハント (上) (扶桑社ミステリー)

アイス・ハント (上) (扶桑社ミステリー)

アイス・ハント (下) (扶桑社ミステリー)

アイス・ハント (下) (扶桑社ミステリー)