因業!因業!また因業!〜『呪詛』 花輪和一

呪詛 (幽COMICS)
花輪和一の新作を正月から読めるとはなによりも目出度い。タイトルが『呪詛』なんていうのもお目出度さ満杯である。
この作品集は怪談専門誌「幽」連載の花輪氏の作品に書下ろし2作を加えて刊行されている。6ページほどの短編が23作、それぞれは短くとも花輪エキスがこれでもかとばかりにドロドロに詰まっており、逆に短いからこそその寓意があからさまに伝わってくる作品ばかりだ。しかもこの作品集、これまでの中世日本を舞台にしたものばかりではなく、現代を、さらにはSF的な展開を迎える作品までが収められているのだ。それは目新しさを狙ったのではなく、作品テーマの持つ寓意性を最も端的に表現できる舞台を選んだだけなのだろう。
花輪氏の作品はおどろおどろしくそして歪みきった人間の心情を描き、その想念が「異形のモノ」として形を成して人々を苛み、人間の持つ救いようの無い【業】を描くものであるけれども、その【業】から逃れるべく祈りと神にすがる人間性と、その救済をもまた同時に描くのだ。花輪漫画の恐ろしい部分はその揺り幅の大きさであり、絶対的な絶望と、法悦にも似た救いとを、作品毎にくるくると変えながら描いてしまうのである。花輪漫画の中心にあるものは狂気にも似た怨念と地獄のような苦悩だ。それを花輪氏は血膿のように滴らせながらページに叩き付けると同時に、そこからの救いをあらん限りの願いで描くのだ。
よく「パンツを脱いだ表現」という言い方があるが、花輪氏などはパンツを脱いでいるどころか己がイチモツをズルムケにして見せ、さらにケツの穴まで満天下にさらしながら漫画表現に挑んでいるのだ。ここまで自らの情念が作品に直結する作家はまさに稀有であろう。花輪和一は日本漫画界の至宝と呼ばれる者の一人であることは間違いない。

呪詛 (幽COMICS)

呪詛 (幽COMICS)