悪徳と虚無の街再び〜映画『シン・シティ 復讐の女神』

シン・シティ 復讐の女神 (監督:ロバート・ロドリゲス/フランク・ミラ− 2014年アメリカ映画)


馬が合う監督、というのがいて、それはどんな作品を観ても楽しめるし、そして何故だか気の置けない勝手な親近感を覚える監督ということなんだけど、オレにとってロバート・ロドリゲスはその最たる人だろう。もう、今迄観たロドリゲス作品のどれを思い出してもにんまりしてしまう。ロドリゲス監督作品はデビュー作『エル・マリアッチ』を始めとしてどの作品も大好きだ。ロドリゲス監督作品はバイオレンス描写のなかにどうにも馬鹿馬鹿しい雰囲気が溢れている部分が好きなのだと思う。しかし白状すると、『スパイキッズ』シリーズや『シャークボーイ&マグマガール』あたりのファミリーアドベンチャー映画は観ていない。うーむやはりこれを機に観る必要があるのかもしれない。

そのロドリゲス監督による新作映画『シン・シティ 復讐の女神』は2005年公開作品『シン・シティ』の続編となる。『300/スリー・ハンドレッド』を著したグラフィック・ノベル界の鬼才、フランク・ミラ−原作であり、前作に続き今作でもフランク・ミラー自身が共同監督にあたる。『シン・シティ』は悪徳栄える架空の犯罪都市シン・シティを舞台とした群像劇であり、このどん底の街で欲望と暴力と死に取り付かれた登場人物たちが、あまりにも安い命をなげうちながらあがきまわり潰し合う、といったネオ・ノワールである。原作のグラフィックは黒と白のコントラストの激しいソリッドな画面が特徴的だったが、映画でもそのグラフィック・センスを全体に渡ってフィーチャーし、一種独特の「グラフィック・ノベル・ムービー」として完成している。

シン・シティ』は複数のエピソードが積み重ねられて一つの世界を形作る作品だが、映画も同様に複数のエピソードが平行して物語られることとなる。この『シン・シティ 復讐の女神』では4つのエピソードがその中心となっている。

EPOSODE 1: JUST ANOTHER SATURDAY NIGHT
ゴリラのような体躯を持つ命知らずのならず者マーヴ(ミッキー・ローク)が今夜もシン・シティで暴れまわる。
EPISODE 2: THE LONG,BAD NIGHT
一攫千金を夢見るギャンブラーのジョニー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が街の有力者ロアーク(パワーズ・ブース)にポーカー勝負を挑む。
EPISODE 3: A DAME TO KILL FOR
私立探偵ドワイト(ジョシュ・ブローリン)の前に元恋人のエヴァエヴァ・グリーン)が現れ、再び彼を翻弄し始める。
EPISODE 4: NANCY'S LAST DANCE
ストリッパーのナンシー(ジェシカ・アルバ)はかつて命を賭して彼女を守った刑事ハーディガン(ブルース・ウィルス)の復讐の為に街の有力者ロアークの命を狙う。

これら4つのエピソードの、それぞれの登場人物とそれぞれの因縁が交差しながら、物語はどこまでも暗く救いようの無い街シン・シティの姿を浮き彫りにしてゆくのだ。

さて続編ということもあり、映画作品としては前作とさほど変わらない世界観と物語展開ということになっている。ただしグラフィック自体は前作から年数を経た特撮テクノロジーの進歩から、注意深く見ると格段に洗練されそしてまた美しい映像が奔出しているのが分かるだろう。特に、月影のみの闇夜の中に浮かび上がる悪女エヴァの裸体のシーンにははっとさせられるものがあった。また、エピソードによっては前作エピソードの前日譚が描かれているものもあるので、多少時間軸が錯綜している。ただしこの作品は、物語それ自体よりも、その独特の雰囲気と、VFXを駆使した圧倒的に暗く輝くグラフィックを堪能するために作り上げられているので、前作との繋がりなど知らない・または覚えていなくとも、これはこれで楽しめる作りとなっている。

作品構成としてはモノローグがとにかく多い。前作もそうだったのだが、ソリッドな映像を登場人物のハードボイルドな心情吐露で繋いでゆく、というのがこの作品の構成となる。だからモノローグ説明による作品進行といった形が嫌いな方には鼻に付くかもしれない。これは原作構成を最大限生かした形から来るもので、映画というよりもあくまで「グラフィック・ノベル・ムービー」である、という部分を念頭に置く必要があるだろう。これらモノローグは一歩引いて見るなら自己陶酔的な臭いのするものばかりなのだが、そもそもこの物語が陶酔的な映像に陶酔的な台詞を載せたものとして形作られているので、ここはもう好みの分かれるところとしか言いようがない。いわばこの『シン・シティ』は、「明日無きバイオレンス・マッチョの虚無と死」を、その甘やかなる破滅願望をこそ楽しむ作品だからだ。

そうはいいつつ、前作と比べて幾分平坦に見えるのは、ひとえに前作においてスペシャル監督として参加したクエンティン・タランティーノの存在が今回はなかったからかもしれない。前作ではそれなりに映画的なダイナミックなアクションと、そのダイナミズムから生み出される鮮烈な情感がほとばしっていたが、今作では原作の持つ「ムード」のみを移し替えただけのように見えてしまう。個人的にはその「ムード」がお好みなのでたいして遜色は感じないのだが、ダメな人にはダメだろう。そういった部分で人を選ぶ映画ではあるが、しかし今作においてはエヴァ・グリーン演じる究極の悪女エヴァの恐るべき媚態や、オレが「ジェシカ・アルバたんハァハァ」として愛して止まないジェシカ・アルバ(たんハァハァ)の2児を生んでなお輝く美貌と復讐の狂気に駆られた壮絶な演技が見られるのでここは注視してもらいたいと思う。もちろんBlu-rayが出たら即購入の勢いであるオレである。

http://www.youtube.com/watch?v=RdeYx2uT0KQ:movie:W620

シン・シティ1

シン・シティ1

シン・シティ2

シン・シティ2

シン・シティ3

シン・シティ3

シン・シティ4

シン・シティ4