ビッグ・ヒーロー・シックス〜映画『ベイマックス』

ベイマックス (監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ 2014年アメリカ映画)

  • ベイマックス』の予告篇を観た時は、「日本ぽい街を舞台にした少年とロボットの心の交流の物語」みたいな紹介のされ方をしていて、「まあ、観なくてもいいか」と思っていた。それとここ最近のディズニーCGアニメにはまるでいい印象が無かったので、積極的に観る必要を感じなかった。
  • ところが、その後の口コミで、「実は後半戦隊ヒーローものに様変わりするらしい」と知り、少々興味が湧いた。
  • 観終った後で調べたところ、そもそもこの映画の原題は『Big Hero 6』となっており、最初っからヒーロー物であるのがあからさまになっているのだ。
  • しかも原案自体が「6人の日本人スーパーヒーローを主人公としたマーベルコミックのアメコミ作品『ビッグ・ヒーロー・シックス』」という作品なのだという*1。自分は知らなかったのだが、2009年にディズニーはマーベルを買収しており、その流れで製作された作品なのらしい。
  • とはいえ、実のところ個人的な感想としては、後半のヒーロー対悪の大戦闘よりも、前半における科学への夢に溢れた少年たちの描写に心惹かれた。
  • この前半での、発明を通した科学への憧れ、科学への夢について描かれるくだりは、非常に正しくSF的であった。それは、科学的に正しいとかそういう意味ではなく、科学に対する態度がそう思わせるのだ。
  • 例えば映画冒頭のロボット・バトルと同工のテーマを描いた映画『リアル・スティール』は、その世界観のお粗末さも含め少しもSFを感じなかったが、この『ベイマックス』には「この作品世界がどのようなテクノロジーを基に成り立っており、さらにどのようなテクノロジーの発展が見込まれているのか」がきちんと描かれているのである。
  • すなわち、「正しくSF的である」というのは、物語における世界観が、誤魔化しなくしっかりと確立されている、ということなのだ。
  • 物語の中心となるロボット、ベイマックスがそもそもは医療ロボットである、という設定も面白い。医療介護ロボットを描いた大友克洋原作の『老人Z』というアニメがあったが、このベイマックスはそれより格段に洗練されており、リアリティが増している。ただしあの不格好な体形には少々疑問が残るが、まあビジュアル的な愛嬌ということなのだろう。
  • だが後半において敵役の存在が確定し、兄の復讐とばかりに仲間を募ってのヒーロー戦隊になってしまう展開は、これがメインとはいえ通俗的過ぎ、既視感ばかりが気になって新鮮味を感じなかった。
  • ここで物語はそれまで丹念に培ってきたリアリティから乖離し、パワードスーツを着たヒーローのどこにでもありそうなアクションへと全てが収斂してしまう。これではここまで培ってきた世界観が台無しになってしまうではないか。
  • つまり原案作品『ビッグ・ヒーロー・シックス』が持っていたのであろうアメコミ的な単純明快さが、それを補う形で創作された前半の物語の奥深さを殺してしまっているのである。
  • であるならこの作品はやはり最初の「少年とロボットの心の交流の物語」を中心としながらそこにSF的な寓意を持ちこんだものとして展開するべきだったのではないか。
  • さらにクライマックスでの"救出"シーンの在り方はどうにも粗雑に感じてしまいこれには白けさせられた。
  • そういった部分では、後半の戦闘シーンを楽しみにしていたにもかかわらず、そこにがっかりさせられた作品ではあった。

http://www.youtube.com/watch?v=8Bwy5SMETwU:movie:W620