未だ誰も観たことの無い孫悟空の物語〜映画『西遊記 はじまりのはじまり』

西遊記 はじまりのはじまり (監督:チャウ・シンチー 2013年中国映画)


クリストファー・ノーランの新作はどうも観る気が起きないのだが、チャウ・シンチーの新作と聞くとこれは観なきゃマズイだろ、と思ってしまうオレである。だって『少林サッカー』で『カンフーハッスル』の監督だぜ?『ミラクル7号』から6年振りの監督作だぜ?途中『ドラゴンボール EVOLUTION』の製作なんかもやってあれこれ鬱憤溜まってるだろうから、きっとそれが大爆発した映画になってるぜ?予告編観たら既に相当ハチャメチャだったぜ?

物語はもちろん誰もが知るあの『西遊記』である。だがチャウ・シンチーの『西遊記 はじまりのはじまり』は、かの物語を未だ誰も見たことの無い西遊記として再構成しているのだ。誰もが知っているからこそ弄り甲斐があるということなのだろう。この『はじまりのはじまり』はとある水辺の村を妖怪が襲い、それを「妖怪ハンター三蔵法師(ウェン・ジャン)が調伏するために訪れる所から始まる。

天竺へ経典を求めて旅に出るあの三蔵法師が「妖怪ハンター」である、という部分がまず面白い。その三蔵法師がどう孫悟空沙悟浄猪八戒らと出会い、旅を決意するのかまでを描くのがこの物語となるのだ。だからお話は三蔵法師中心で、肝心の孫悟空がなかなか現れない。その孫悟空とどういった形で出会うのか?という興味がこの物語を引っ張ってゆくことになるのだ。

冒頭の舞台となる水辺の村がオールセットになっていて、そのセットを縦横無尽に使いトリッキーなアクションを見せる所からまず楽しませる。現れる水妖はこれが大変恐ろしい姿をしていて、しかも思う存分殺戮を繰り広げる、といった部分にも驚かされる。だってまず女子供から血祭りなんだよ!「孫悟空のお話だから面白そうだね!」と観に行った家族連れを凍り付かせちゃうかもね!PG-12だからそんなにエゲツなくないけどね!

そしてそこで三蔵法師は女妖怪ハンター・段(スー・チー)と知り合い、あろうことか彼女は三蔵法師にぞっこんになっちゃうんだ!でも三蔵法師はこれを頑なに避けるんだね!そして物語は、女妖怪ハンター・段が三蔵法師をなんとかして振り向かせようとあの手この手に打って出るという、ラブコメ展開が中心となるんだよ。西遊記なのにラブコメ!という部分が実に面白いね。段を演じるスー・チーさんのエキゾチックな美貌も魅力たっぷりだ!

この後物語は怪しげな妖怪ハンターたちがぞろぞろ現れて、その奇抜な超能力を見せるんだ。物語に現れる妖怪よりも妖怪ハンターのほうが多いぐらいだよ!彼ら妖怪ハンターの能力も物語後半まで小出しになっていて、その真の力の程は最後までのお楽しみになっている。舞台も岩蔵の中にある豪華で不気味な料理処や、妖怪ハンター戦車なんかが登場し、またもや楽しい美術を見せるんだね。

そしていよいよ孫悟空を探しに険しく奥深い山の中に分け入る三蔵法師なんだが、そこで出会った孫悟空は…なんと小汚いおっさん!おまけにハゲ!これのどこが孫悟空なんだよ!?今まで作られた西遊記の物語の中でも最も貧相な孫悟空なんじゃないかなこれ!?意外性あり過ぎ・奇をてらい過ぎだよ!?…などと観客を大いにドン引きさせてからの怒涛のクライマックス展開が楽しいんだからここでメゲちゃだめだよ!

とまあアクション・特撮はチャウ・シンチー印の安定の派手さとハチャメチャぶりを見せ、おまけに物語はとことん意外性で引っ張ってゆくこの『西遊記 はじまりのはじまり』、徹底して娯楽性を追及した良作だったな!しかもなんと歌と踊りまで登場し、暴力警官ならぬ暴力猿が地球の重力無視して暴れまわるっていうんだからなんかもうインド映画みたいだったね!というかそもそも三蔵法師はインドを目指すんだからインド映画ぽくなって当然なんだよ!という重度の「インド映画脳」と化したオレにも相当楽しめる作品でした!
参考:「GOLDEN ASIA」に期待すること / インド映画通信
http://www.youtube.com/watch?v=vHDY93JJv4I:movie:W620