浮気はダメよ!3組の夫婦が巻き起こすコテコテのコメディ映画『No Entry』

■No Entry (監督:アニーズ・バスミー 2005年インド映画)


恐妻家の男が女好きの友人にそそのかされ、美人ダンサーに色目を使ったばかりにとんでもない大騒ぎに!?というのがこの映画、2005年にインドで公開され、この年一番の大ヒットを記録したコメディ作品『No Entry』です。主演をアニル・カプールサルマン・カーン、ファルディーン・カーンが務め、さらにミス・ユニヴァース2000のラーラー・ダッタをはじめとするゴージャス美人3人が男優たちにからみます。もともとはタミル語のヒット作『Charile Chaplin』のリメイクで、『マダム・イン・ニューヨーク』で好演したシュリデヴィの夫、ボニー・カプールのプロデュース作でもあります。また、カメオ出演としてゴーヴィンダ、サミーラー・レッディが登場。

物語はインド・コメディらしい若干のややこしさがあるので、かいつまんで説明してみますね。

○物語のメインとなるのは3組の夫婦とひとりの女。
・恐妻家の男キシェン (アニル・カプール)と、疑り深いその妻カージャル(ラーラー・ダッタ)。
・遊び人で浮気性の男プレム(サルマン・カーン)と、彼を信用しきっている妻プージャ(イーシャー・デーオール)。
・キシェンの友人シェカール(ファルディーン・カーン)と、彼とひょんなことから恋に落ち結婚するサンジャナ。
・プレムが通うバーのダンサー、ボビー(ビパーシャー・バス)。


○キシェンは誠実な男だったが、妻カージャルは彼がどこかで浮気している、といつも疑心暗鬼だった。そんな彼に友人のプレムはダンサーのボビーを紹介するが、それは四角四面の男キシェンが、女性との関係をどれだけ奥さんに隠し通せるかを試してみようというおふざけからだった。妖艶な美女ボビーにキシェンの心は大いに揺らぐ。しかし悪いことはできないもの、キシャンとボビーの逢引の場所に奥さん登場!


○キシェンはとっさに「いやいやいや、これは友人シェカールの奥さんだから!」と説明し納得させてしまう。キシェンの頼みで嫌々ボビーとおおやけの場に出たシェカールだが、今度は自分の妻サンジャナにそれを発見されてしまう!そしてシェカールはシェカールで、「いやいやいや、これはキシェンの奥さんだから!」とボビーを紹介し納得させてしまう。こうして思い込みと勘違いが重なったややこしい状況は、彼らが一堂に会したときさらなる大混乱を生み出すのだった!

いやー、もうコッテコテです。そのうち登場人物全員ヒンディー語じゃなくて関西弁で喋くりまくるんじゃないかと思わせるほどのコテコテのコメディです。言うなれば3組の夫婦の浮気疑惑事件を面白おかしく描いただけのものなんですが、それで上映時間163分持たせちゃうんですから、毎度ながらインド映画いい根性してます。しかもこれが公開された年のナンバーワンヒットになっちゃう、といった部分にインド人の業の深さが垣間見えます。

どこのお国であろうと浮気は褒められたことじゃないですが、インドでも宗教的な部分で結婚の結び付きって絶対に近いものらしく、浮気に対するタブーは相当に強いんじゃないでしょうか。ただまあそこは人間ですから、いくら神様の手前とはいえ浮気しちゃう方もいらっしゃるのではないかと推測できます。しかしこと映画に関しては、あからさまに浮気について描く、っていうのはインドじゃ意外と珍しいのかもしれません(自分が知らないだけで実はいっぱいあったりして)。しかし逆に、タブーが強いからこそ憧れるのは人の心の常で、そういった部分でインドで大ヒットした、っていうことは十分考えられますね。

とはいえ、物語は別に浮気を生々しく描くものではなく、「美女がいたので鼻の下伸ばしちゃった!」とか「ちょっとデートしちゃった!」程度の可愛らしさで、あわや!というシーンもありますが、そこに知らずに女房がやってきちゃう!という危機一髪のシーンを盛り込み上手に回避していたり、要するに浮気そのものよりも煩悩だらけの男の可笑しさ情けなさを描くのが中心となるんですね。それと同時に、インド・コメディお得意の「嘘に嘘を積み重ねた挙句、物事がどんどん訳が分からない方向に転がってゆく」というシチュエーションが連鎖的に爆笑を生んでゆき、「こんなにグチャグチャになった状況をどう収めるの!?」と笑いながら主人公たちが心配になってきちゃったりもします。大いに笑わせてくれる作品でした。いやー、浮気をしちゃダメだね!

ところでこの作品、サルマン・カーンが出演しているので最初主演かな?と思ったんですが、重要な役回りであるけれども中盤は全然登場せず、むしろ美人ダンサーにその気になっちゃったキシェンと、キシェンに振り回されるシェカールの二人が中心的にドタバタを繰り広げることになりますのでサルマン・カーン・ファンはご注意を。キシェン役を演じるアニル・カプールはこの映画の当時はそこそこのインド俳優でしたが、この後2008年にイギリス映画『スラムドッグ$ミリオネア』にクイズ番組司会者役で出演、多数の映画賞を受賞し、国際的に名度を高めましたね。さらに2010年にTVドラマ『24 -TWENTY FOUR-』の最終シーズンに出演、2011年には『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に出演と、国際的なインド俳優となりました。

http://www.youtube.com/watch?v=d5vWYKQc7Nk:movie:W620