アメリカ兵はツライよ〜映画『ローン・サバイバー』

ローン・サバイバー (監督:ピーター・バーグ 2014年アメリカ映画)


タリバンの悪いヤツラを懲らしめに意気揚揚とアフガニスタンに赴いたアメリカ人の兵隊さんたちが、返り討ちに遭ってギタギタにされちゃう、というアメリカ映画です。実際の出来事を元にして制作されたということですね。

まあ、お仕事とはいえ、アメリカの兵隊さんは大変なんだなァ、というのがひしひしと伝わってきます。アフガンの山の中、たった4人で200を超えるタリバン兵に取り囲まれ、絶望的な銃撃戦を繰り広げるのですが、仲間は一人また一人と倒れていく、という壮絶な展開を見せます。この辺、アメリカ国民の皆さんは大変悲痛な思いでこの映画を観られることになるのでしょうが、日本のその辺のオヤジである自分などは「すっげー!チョー迫力!コエー!」とか「うっわー!チョーイタそう!コエー!」とかアホみたいな感想しか浮かばないんですよ。実話だとは言われても、単にリアルでよく出来たスペクタクルだねぇ…ぐらいしか感じないんですよ。まあ戦闘のドンパチさえ面白ければそれでもいいのですが、逆にそれ以上でも以下でもない映画なんですね。

そもそもこの作戦の失敗自体が、「密告する恐れがあるにも関わらずアメリカ兵の存在を知ってしまった民間人を逃がしてしまう」という初歩的なミスからだし、それと合せ連絡が途絶えがちな山岳地帯の作戦であった、というのももうひとつの理由ですが、アメリカの誇る特殊精鋭部隊ともあろうものが、こういった状況における対処の仕方のコンセンサスがとれていないんだ?となんだか不思議でした。結局、「迂闊な作戦だったんだろ?」という気がどうにもしてしまい、それを孤立無援の派手な銃撃戦で悲壮感たっぷりに描かれてもどこか白けるんですよ。

ところがクライマックスで、ただ一人生き残った主人公をアフガニスタン人のある村がかくまう、というシーンが入るんです。これは「助けを求めてきた客人は、どんな犠牲を払っても守り抜く」、「パシュトゥーンの掟」というものがアフガンに古くからあるからなのだそうなんです。そしてこの村の住民たちとタリバン兵との壮絶な銃撃戦が始まります。しかしこの村自体、冒頭でタリバンの暴挙を苦々しく思っているような場面が挿入されているんです。こういった、一般の住民とタリバン兵との齟齬、そして、今アフガニスタンがどういう状況に置かれているのか、本来これこそが中心的なテーマとして描かれるべきことであって、迂闊なアメリカ人兵士がドンパチやりながら逃げ惑う映画的スペクタクルなんて、それと比べたらどうでもいいことのようにすら思えてしまいましたね。

だけども「戦闘被害者」であるアメリカの兵隊さんを擁するアメリカ人にとっちゃあ、アメリカ兵を痛めつけたにっくきアフガニスタン人の現況とか物の考えとかどうでもいい話で、結局「お国の為に大変な思いをした兵隊さんたちに同情しちゃうぞ!」という物語としてしか映画は成立しないんですね。ラストは亡くなった戦士を偲びつつ情緒たっぷりに幕を閉じ、ここでデヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』がいやらしいぐらい感傷的ななバージョンで歌い上げられますが、この感傷性自体、なにかはき違えているような思えましたね。ボウイのいちファンとして言わせてもらうなら、そもそも『ヒーローズ』ってそんな歌じゃねえぞオイ。

https://www.youtube.com/watch?v=IX-Mue5vDRo:MOVIE