最近聴いたCD / Syro / Aphex Twin、Live in Paris 28.05.1975 / Fripp & Eno、Sound + Vision / David Bowie、Art Official Age / Prince、Plectrum Electrum / Prince & 3RDEYEGIRL

◆Syro / Aphex Twin

13年振りのリリースというエイフェックス・ツインの新作『Syro』。エイフェックス・ツインはリチャード・D・ジェームスの様々な別名ユニットも含め、デビュー前後からまめに追いかけていて、入手できる音源はできるだけ聴いていた。日本におけるライブも2度観ているが、どちらも「唯一無二」とも言える圧倒的なパフォーマンスであり、今でも強烈に脳裏にこびりついている。特に台風の直撃した伝説のフジロック第1回目、どしゃぶりの雨を降らす黒い雲の渦巻く空の下、天上の音楽のごとく響き渡るエイフェックス・ツインの【音】は、ひたすら神々しさに溢れていた(オープンステージにフルチンで飛び出してきたスタッフの印象も強かったが)。「テクノ・モーツァルト」「テクノ・ビースト」の異名を持つ彼もまた、一人の異能であり天才であることは誰もが認めるところだろう。彼の音は、その時代時代において、常に頭抜けたものがあった。頭抜けており、稚気に溢れ、時に暴力的で、そして彼独特の強烈な個人性を感じさせた。さてこの『Syro』、これまでにリリースされたアルバムと聴き比べると随分大人し目に聴こえるのだが、13年を経て彼も老成したということなのだろうか。しかしそう考えるよりも、単に彼独特の気まぐれで、これまで録り溜めしていた膨大な数の未発表曲を、たまたま気分が出てサクッとまとめてサクッとリリースしただけのもののような気もする。いわばリチャード・D・ジェームスの雑記帳披露みたいなものだが、例えば画家ピカソが単純な悪戯書きをしてもそこに天才の片鱗を刻印しているように、この『Syro』も、噛めば噛むほどエイフェックス汁の沁みてくるエイフェックス印の音として楽しむことができるのだ。そして2年後3年後、このアルバムを再び聴いたとしても、その新鮮さは決して失われることなく保存されていることだろう。

◆Live in Paris 28.05.1975 / Fripp & Eno

Live in Paris

Live in Paris

キング・クリムゾンロバート・フリップと元ロキシー・ミュージックブライアン・イーノによるユニット「Fripp & Eno」の1975年に録音されたライブ音源。Fripp & Enoは現在でも思い出した頃にアルバムをリリースしているが、最も重要で中心的な活動は1973年にリリースされた「No Pussyfooting」、1975年にリリースされた「Evening Star」の頃だろう。特に「Evening Star」は、オレのオールタイム・ロック・アルバムに必ず入る1枚だ(あれをロックといえるかどうかはまた別の話だが)。彼らの音楽の基本となるのはイーノ製作によるループ音源にロバート・フリップのギター・インプロビゼーションが乗せられる、といったものだが、非常に実験性が高く、また、その音の様子は「大音量で聴くアンビエント・ミュージック」といった感じだ。というわけでこの『Live in Paris 28.05.1975』はアルバム「No Pussyfooting」「Evening Star」の曲を中心にライブ演奏されるが、音質は決して良いものではないにせよ、当時のライブ会場の狐につままれたような雰囲気が味わえて実に楽しい。3枚組だが、2枚がライブ音源で、3枚目は当時イーノが使用していたループ音源を聴くことができる、これがまた実にアンビエントしていてよい。
Evening Star

Evening Star

◆Sound + Vision / David Bowie

Sound Vision

Sound Vision

2003年に発売されたデヴィッド・ボウイの4CDBOX『Sound + Vision』が再発された。これはボウイのキャリアの中から1969年から1994年までの音源を選りすぐって編集したもので、『Outside』以降の曲は収録されていない。どうせ再発するなら現在までの全キャリアの中からセレクトしたベスト盤BOX-SETで出してくれればいいのに(購入前はそういうBOX-SETだとばかり思っていた)、その辺はどうも片手落ちな気がする。そもそもいちボウイ・ファンとしては彼のリリースしたアルバムは殆ど持っているので、わざわざBOX-SETを買う理由は無いのだが、やはりこういうBOX-SETって「聴く為」というよりは「コレクターズ・アイテムとして所有する為」に購入してしまう。とは言いつつ、幾つかのアルバム未収録・別バージョンものは初めて聴くものがあり、さらにTin Machine時代はすっかり無視していたので、今回のBOX-SETでこれも初体験ということになった。まあ4枚全部通して聴くことは無さそうな気はするが。

◆Art Official Age / Prince

ART OFFICIAL AGE

ART OFFICIAL AGE

プリンスに関してはMTV華やかなりしころの『パープル・レイン』でハマり、それから過去作を遡って聴き、さらにそれ以降、多分『ダイアモンド&パール』あたりまではアルバムを追いかけていた。一旦興味は失せたものの、その後のタイトルも思い出した時に聴いたりしていた。さてこの『Art Official Age』は『20 TEN』から4年ぶりとなる新作だという(ちなみに『20 TEN』は特殊なリリース形態だったために聴いていない)。今回も実にプリンスらしい金太郎飴的なファンク/ソウル・ナンバーが並び、極めて良作である。この人は時代を超越した天才なので、どれほどキャリアを経ても、常に新鮮に聴こえるところが素晴らしい。オレはファンク/ソウルに関しては基本的な部分しか学習していないので、プリンスの「天才」がどういったものなのか説明することができないのだが、今やほとんどエレクトロニカしか聴かなくなってしまったオレがプリンスに関してのみ十分面白い作品だと感じることができるのは、彼の音楽性がジャンルに縛られないものであり、そして非常に完成度の高いものである、ということだからなのだろうと思う。

Plectrum Electrum / Prince & 3RDEYEGIRL

Plectrum Electrum

Plectrum Electrum

『Art Official Age』と同時リリースされた『Prince & 3RDEYEGIRL』名義の初作。プロジェクト好きのプリンスによる新ユニット3RDEYEGIRLは女性3名で構成され、ああもうプリンスさんったら女好きだから、と下世話なことを思ってしまったことを許してほしい。『Art Official Age』がファンク/ソウル・アルバムだったのに対し、こちらはプリンス好みの轟音ギターが鳴り響くロック・アルバムだ。そしてこのアルバムも、ロックを聴かなくなったオレが楽しめてしまう、という部分が面白い。ユニットの女性メンバーによるボーカル曲も幾つかフィーチャーされているが、基本的には『Art Official Age』との2枚組アルバムと受け止めて、2枚同時に購入するのが正解だろう。