ゲイと偽ってシェアした部屋には美人ちゃんが!?〜映画『Dostana』

■Dostana (監督:タルン・マンスカニ 2008年インド映画)


ノンケの男二人がゲイと偽ったばかりに、どんどん窮地に追い込まれちゃう!?というロマンチック(?)・コメディです。とはいえ、これにはいろいろと訳がありまして…。

舞台となるのはマイアミ、そして主人公はフォトグラファーのクナール(ジョン・エイブラハム)と看護師のサム(アビシェーク・バッチャン)。二人は住処を探してたまたま同じフラットに鉢合わせるが、ついでだからと一緒に家主に交渉に挑む。しかしそのフラットは既に住んでいる家主の姪とルームシェアが条件、男性お断りの物件だった。そこで二人は一計を講じ、「ボクらゲイのカップルだからノープレブレムだよ!」と大家を上手く丸め込んでしまう。しかし同居人となった家主の姪ネーハー(プリヤンカー・チョープラー)と顏を合わせてみるとこれがとんでもない美人ちゃん!「二人ともゲイなのね!一緒に仲良く住みましょう!」と明るく微笑むネーハーに心奪われるも、今更ゲイが嘘だったとは言いだせない二人の明日はどっちだ!?

この『Dostana』、まず主演男優二人のゲイ演技がイイ味出してます。クナールを演じるジョン・エイブラハムはガチムチのいい体した精悍なイケメンで、これはこれで十分ゲイな雰囲気を醸し出し、ホントのゲイの方にもウケがよろしいんじゃないでしょうか。一方サムを演じるアビシェーク・バッチャン、ちょっと色黒で髭も濃い彼は、イケメンって言うほどではないにしても、一緒にいて心和むような包容力を感じさせないでしょうか(しない?)。言うなればエイブラハムは危ない男、アビシェークは優しげな男、と区分けできるのではないかと思います。物語でもアビシェークのほうがクネクネ演技を得意としておりましたが、そうするとネコとタチで考えるなら…という話は置いといて、アビシェークさん、この『Dostana』の後に主演した『Bol Bachchan』でも嘘のゲイ役をやっておりまして、ゲイにただならぬ縁があるのかもしれません。

二人の偽ゲイ・エピソードでまず笑わせてくれるのが、「そもそも二人はどんな風に知り合ったの?」と興味津々の周りに説明する、でまかせの出会いエピソードです。「そう、僕らは水の都ヴェニスで知り合ってね…」と語りはじめる嘘んこの回想シーンのロマンチック極まりないゲイ描写(?)は、観る者のハートをきっととろけさせることでございましょう。そして「自分の息子がゲイになった!?」と知り乗り込んできたサムの母の狂乱エピソードがまた笑わせくれます。インド映画では歌と踊りがお馴染みですが、この母親の狂乱シーンがそのまま歌と踊りで再現されるってアナタ!?しかし最後はそんな息子を受け入れ「幸せになって…」とか言うんですが、受け入れられちゃった息子サムの複雑な表情がまた…。

しかしこの作品は、面白おかしく偽ゲイを描くのがメインでは決してありません。後半では、ネーハーに同時に惚れちゃったクナールとサムの対立、しかし嘘を付いていることを言い出せないお互いの苦悩が描かれます。しかもネーハーの上司が彼女を口説いている事を知り、二人は共同戦線を張ってこの上司を退けようとします。しかしこの上司を退けたところで、ゲイであるという嘘をついている事には変わりはしないんですね。そして、ゲイとして友情を育んでくれた彼女が、それが全部嘘だったと分かったら、愛してくれるどころか友情すら失うのは目に見えた事でしょう。ちょっとした嘘をついたばかりに、その嘘に嘘を塗り重ね続けなければならず、そして最後に大変なことになってしまう、というのはインドのコメディ映画では多く目にするモチーフで、大概はドタバタの末になぜだか丸く収まってしまいますが、こと男女の間の嘘はそうそう丸く収まったりはしないんです。

じゃあどうなっちゃうの?という結末は映画を観てもらうとして、この物語でひとつのテーマとなるのは、タイトル『Dostana』の意味である「友情」ということでしょう。嫌々ゲイのフリをし続け、一人の女性を巡って大喧嘩までしてしまうクナールとサムは、次第にお互いの友情に気づきます。しかしネーハーとの友情はどうでしょう。それはゲイと偽っていたから成り立っていた友情でしたが、それが知られた後に友情は立て直すことが出来るのか、どう彼女の信頼を取り戻せばいいのか。とかく「男と女に友情なんてありえない」なんていう話があったりしますが、苦くもあり甘くもあり(ついでに悶絶させられちゃう)あのクライマックスに、その一つの答が描かれているのではないでしょうか。

http://www.youtube.com/watch?v=gcEE4F-9qP8:movie:W620

(蛇足)ゲイと偽った男二人が…というこのシチュエーション、どこかで見たことがあるな、と思ったんですが、アダム・サンドラー主演で2007年公開のコメディ作品、『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』なんですね。この映画でもゲイと偽ってアパートを借りた二人の男の物語です。