インド最強のスパイ・ヴィノッド参上〜映画『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』

■エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ (監督: シュリラーム・ラガヴァン 2012年インド映画)


ずっと英語字幕の輸入盤インド映画ばかり観ていたので、たまには日本国内で流通している日本語字幕の付いたインド映画も観たくなってきた(本当は英語物凄く苦手なのだ…)。しかし悲しいかな、日本で販売され、レンタルでも観ることのできるインド映画というのは本当に数少ないし、しかも、有名どころは殆ど観てしまっているのだ。そんな中あれこれ調べて、観てみようかな、と思ったのがこの『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』。

物語:インドの諜報局RAWの“ヴィノッド”(サイフ・アリ・カーン)は、9つの名を使って、世界中を飛び回るスパイだ。アフガニスタンでの潜入捜査で捕われ、パキスタンの諜報局ISIに執拗な拷問を受けていた。だが、間一髪のところで同僚のラジャンに救出される。その後、ロシアの犯罪組織に潜入していたラジャンが、“242”という数字を言い残した後に殺害される。ヴィノッドは、仲間の死と“242”の正体を探る中で、モロッコの富豪・カザンが一連の案件に関わっているという情報を得る。偽名を使って、カザンの元を訪れたヴィノッドに監視役として謎の美女・ルビー(カリーナ・カプール)が近付いてきた。モロッコでの情報を基にパキスタンへと渡ったヴィノッドとルビーは、デリーにおける核爆発計画の存在を知る。ヴィノッドは核爆発の阻止に奔走し、ついに黒幕の正体を突き止めるが…。(公式HPより)

お話はざっくりまとめると「携帯可能な小型核爆弾の売買を巡りインド諜報局の腕利きスパイ、ヴィノッドが世界を駆け巡りワルモンをぶちのめす」といったもの。007やミッション・インポッシブルみたいな娯楽スパイ・アクションのインド版だ。インドのスパイ・アクションといえば以前サルマーン・カーン主演の『タイガー 伝説のスパイ』という作品を観た事があるが、サスペンスを交えながら途中ラブコメ展開なども交えインド映画らしい変化に富んだ娯楽作になっていた。しかしこちら『エージェント・ヴィノッド』は最初っから最後までシリアスに攻める直球勝負。

ヴィノッドを演じるサイフ・アリ・カーンは徹頭徹尾苦み走ったニヒルな顔で危険な任務を遂行する。サイフ・アリ・カーンで以前観た『Race2』では少々気取りすぎな印象があったが、こちらではもっと体を張った泥臭いアクションを見せていた。この『エージェント・ヴィノッド』自体、無茶なシチュエーションで盛り上げるとかハイテクを駆使した武器や戦略を見せるとかいうものではなく、むしろ仲間の裏切りなどでこまめに危機を作りだしていき、物語を二転三転させることで盛り上げていく、といったシナリオになっている。ただし、ちょっと裏切り者多過ぎ…と若干思ってしまったが。一方謎の女ルビーを演じるカリーナー・カプールは、シリアスな役どころを実にきっちり好演していた。

こういったシリアスでガチなスパイ・アクションだと、どうしてもハリウッドの同様作と比べてしまいがちだが、いわゆる欧米覇権国家のエージェントが金と物量と爆薬にモノを言わせ世界で派手に暴れ回る、といった展開とはやはり趣きが異なり、大国インドならではの実情が見え隠れする部分が興味深い。それはインド・パキスタンの政治的確執ということなのだが、それを軸にしながらも、娯楽作という配慮からだろう、決してパキスタンを悪として描かず、むしろ両者協力し合って真の敵を追いつめる、といった部分にこの作品ならではの展開がある。こうした「俺たちが世界を守ってるんだぜ!」というのとは違う押しつけがましさの無さが、ある意味この作品の魅力かもしれない。

http://www.youtube.com/watch?v=Rw0n3r90vFg:movie:W620