ハウス・ミュージック黎明期のクラブ・シーンを描くコミック〜『マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック』

■マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック / ダヴィッド・ブロ&マティアス・クザン

マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック (マンガでわかるハウス・ミュージックの歴史)

2011年に発行された『マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック(原題:Le Chant De La Machine)』は、ダフト・パンクの盟友であり、一緒に夜な夜な踊り明かしていたというダヴィッド・ブロとマティアス・クザンの2人によって描かれた、ダンスミュージックの歴史をつづった漫画だ。1960年代〜21世紀に至るまでのダンスミュージックが歩んだ変遷が網羅されていて、なおかつ書籍ではなく漫画という所が、これまでになかった斬新な1冊となっている。
序文はダフト・パンクが手掛けており、漫画にはラリー・レヴァンやフランキー・ナックルズ、ロン・ハーディーからデリック・メイまで、豪華レジェンドたちが登場する。NY〜シカゴ〜デトロイトマンチェスターといった世界中で発生したダンスミュージックとその背景を描いた内容は、その深い歴史を楽しみながら知ることができるだろう。さらに翻訳版には注釈と解説が付いているので、より音楽知識を深められるようにもなっている。
〇「ハウスミュージックの歴史が読める漫画「マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック」が日本語化!」Ritto Music Magazine Web

ハウス・ミュージックはどのようにして始まったのか?」。パリに住むダヴィッドとマティアスが描く『マシーンズ・メロディ パリが恋したハウス・ミュージック』は、1977年アメリカのシカゴで生まれたアンダーグラウンド・ミュージック「ハウス」のその背景と、当時の艶やかな喧騒に満ちたクラブの様子を活写する。ハウスの歴史、その成り立ちとなった都市と社会の状況、数々の有名DJたちの伝説、ハウスが生み出し、そして失ったもの。さらにそのハウスがフランスに飛び火し、パリのクラバーたちがどのようなナイト・ライフを過ごしていたのか。
ここで描かれる多くはダンス・ミュージック・ファンには既知のことが殆どなんだろうし、自分はクラブ・ドキュメント映画『Manifesto』で見知ったことが多かったけれども、コミックという形で読むのもまた違った味わいがあっていい。作品前半にはこれら「ハウスの歴史」「パリのクラブ状況」と併せ、小編としてデトロイト・テクノの起源、当時クラブで大流行したドラッグ「エクスタシー」秘話、そして伝説の名曲「ブルー・マンデー」を生み出した当時のニュー・オーダー・メンバーの様子を描く作品が挟まれる。
しかし作品後半ではトーンが変わり、巨大産業と化したダンス・ミュージック・シーンへの幻滅と批判、そうしたシーンの只中にいることの焦燥が描かれてゆく。個人的には、この後半作品には懐疑的だ。安易に量産される"魂無き"エレクトロニック・ミュージックを拒否し、"魂の宿った"ソウル往年の名曲ばかりをクラブでかけて追い出されるDJを描いたフィクションはどうにも青臭いし、クラブ客に迎合した曲ばかりかけながら「新しい物なんて何もない」と呟くDJを描くフィクションは、「だったらお前が新しいものを生み出せばいい話じゃないか?」と思えてしょうがない。結局この後半は「昔みたいじゃない」ことに文句を垂れてるロートルファンの愚痴にしか聞こえない。
確かにヨーロッパではダンス/エレクトロニック・ミュージックは日本では考えられないほど一般化しており(風営法とかいったいどこまで時代錯誤なんだ)、アリーナを埋める世界的DJは数十億単位の巨額ギャラを貰い、オリンピックではテクノやトランスのDJが音楽監督を務め、ヨーロッパ王族の戴冠式ですらエレクトロニック・ミュージックが流される。しかしそういったオーバーグラウンドのダンス・ミュージック・シーンを拒否しアンダーグラウンドで活躍するDJは今も絶たない。そしてオレの愛するエレクトロニック・ミュージックは、そうしたシーンで活躍するDJたちの作品だ。そういう進化・変化の在り方にも目を向けるべきだったんじゃないのかな。
あとグラフィックは、前半がロバート・クラム風、後半はなんというか、崩れたヘタウマ?風で、クラブ・ミュージックに批判が高い分グラフィックもおざなりになっちゃった、ってな感が否めなかった。うーんなにしろ前半はいいんだけどね。