進撃のインド人出撃す!〜映画『バードシャー テルグの皇帝』

■バードシャー テルグの皇帝 (監督:シュリーヌ・バイトラ 2013年インド映画)


ニコ動の「シンクロムービー」で「キレッキレのダンスを踊るインド人」として知られるテルグ人俳優、「進撃のインド人」ことNTRジュニアの主演作が本邦初お目見えでございます。タイトルは『バードシャー テルグの皇帝』、「バードシャー」というのは「王の中の王」という意味で、決して猛禽類がシャーシャー鳴いているといった意味ではございません。この「王の中の王」、映画の中で犯罪組織の王として登場し、実は犯罪組織壊滅の王だったということが後に分かる主人公ラーマ・ラオの謂れであり、またテルグ映画の生え抜き俳優として知られるNTRジュニアのことも指しているのではないかと勝手に思っております。
(※これがシンクロムービー「進撃のインド人」だ!ただし映画は『バードシャー』ではありません)

お話はザックリ申しまして、東南アジアを中心に暗躍するマフィアのドンたちを潜入捜査官ラーマ・ラオが叩き潰す!といったウルトラスーパー・トンデモ系・バイオレンスアクションなんでございます。え?「トンデモ系」ってなんだって?いやほら、そこはインド映画だから。宙を舞い地を割り、もう力学とか重力とかそういう面倒臭いことは存在しない、むしろそんなものあって堪るか!ってことになっているトンデモないアクションが展開するんですよ!いや〜主人公がドガッ!と地面を踏みしめたら悪モンの車がポーン!と宙に放り出され(しかも4台ぐらい)あまつさえ大爆発するシーンなんて既に超常現象の領域ですよ!もはや「ス、スゲエ…」と絶句するしかない!絶句した後にちょっと笑っちゃいますが!

しかーし!この映画、実はそれだけではない!「ウルトラスーパー・トンデモ系・バイオレンスアクション」の合間に、「ラブコメ」と「お笑い」が盛り込まれている!というか実は「ラブコメ」と「お笑い」が「アクション」と同量と言っていい位たっぷりこってり盛り込まれている!そしてそれに追い打ちを掛けるように畳み込まれる歌とダンス!歌とダンス!歌とダンス!もうなんと言いますか油脂満タンの「ラーメンチャーハンステーキ定食」みたいなもんが山盛りになって「さあ食え全部食えたっぷり食え!!」とばかりにテーブルに並べられたようなものです。もうこうなったら胃袋も裂けよとばかりに全部食うしかない!ああ食うさ!食って食って食いまくってやるさ!そしてお腹いっぱい腹いっぱいになった時の多幸感といいますか体中の血液が全部胃のほうに行っちゃって朦朧とした状態の時にこそ得られる至福感、これが映画を観終った時、痺れるように脳髄を満たすのですよ!

まず「ラブコメ」部、これは前半になります。激しい(そして笑える)アクションのオープニングからなぜかバードシャーさん、イタリアで女口説き始めます。お相手はジャーナキさん(カージャル・アグルワール)、意識高い系の彼女の頓珍漢さも笑えますが、その彼女に「失恋した自殺願望男」の振りをして近づき、かくして恋の鞘当のドタバタが演じられる、という訳です。実は彼女に近付いたのも捜査の一環だった、という理由があるんですけどね。そして後半「お笑い」部は冴えない鬱屈オヤジを騙し、「『インセプション』って映画観たよね?あれと同じ夢に入れる機械があるから、あんたも夢の中に入って願望を叶えるがいいさ!」なーんてやっちゃうんですよ。冴えない鬱屈オヤジは夢の中だと思いこんで「オシ!俺はヒーローなんだ!」ととんでもないことを仕出かし爆笑展開を見せますが、これも実は捜査の一環でして…。

こんな具合にあれもこれもテンコ盛り、コテコテでドタバタ、踊りはキレッキレでアクションはトンデモ系バイオレンスという、夢のように楽しい映画、それが『バードシャー テルグの皇帝』なのでございます。ただしシナリオは相当とっちらかっている上に「聞いてないよー」「いくらなんでも無理あんだろ…」と言いたくなる唐突な仰天展開が差し挟まれ、細かいことが気になる方、食が細くて「う〜ん私サラダだけでいいの…あ…低血圧…」といったような方には決して無理強いはできない作品ではありますが、食の神髄食の快楽、すなわち映画の持つ快楽原則をとことんまで味わい尽くししゃぶり尽したい方にはまさに天啓ともなるべき至高のメニュー、それを知り尽して作られたテルグ映画がこの『バードシャー テルグの皇帝』なのでございますよ皆々様!