普段は善意の人だけど、怒らせちゃうと大魔神!〜映画『Jai Ho』

■Jai Ho (監督:ソーヘル・カーン 2014年インド映画)


現在大ヒット上映中の『ダバング 大胆不敵』で主役を務めたサルマーン・カーンが出演した、2014年公開の最新作『Jai Ho』です。「じゃいほー」といえばオレなんかはダニー・ボイル監督の映画『スラムドッグ$ミリオネア』のラストに流れるA・R・ラフマーン作曲の名曲を思い出しますが、こっちの「じゃいほー」は物語の主人公の名前「ジャイ・アグニホートリー」をもじったもの。ちなみに「Jai Ho」って「バンザイ!」とか「勝利あれ」とかいう意味らしいですね。

さてこのジャイさん(サルマーン・カーン)、元軍人なんですが、今は町のお助け屋をして生活しています。それでどう生計が成り立ってるのかはよく分かんないですが、多分軍人恩給とかが出てるのでしょう。今日もジャイさん、レイプ未遂犯を叩きのめしたり、物乞いの女の子に暴力を振るう男をぶちのめしたりして町の浄化に勤めておりました。ジャイさん、暴力だけでなく両腕の無い女子学生の為に書き取りをしてあげたりもしてるんですよ。泣かせますね。しかしこれじゃあラチが明かん、とジャイさん、「3人の人を助けてその3人がまた3人を助ける善意の連鎖を作ったらどうだろう」と提案します。つくづく善意の人なんですねジャイさんは。そんなジャイさんに立ちはだかるのが腹黒の政治家ダルシュラート・シンとその一家。町で好き勝手する彼らに遂にジャイさんの怒りが爆発するんです。

この『Jai Ho』、主人公ジャイさんの「思いやりに溢れた善意の人」という部分と「怒らすと怖い大魔神みたいな人」のギャップが相当で、どこかちぐはぐに感じさせます。しかも「善意の人」を演出するために女性や子供や身障者を総動員していてちょっとアザトイです。そもそも「3人の人を助けてその3人がまた別の3人を助けて…云々」といういわゆる「善意のネズミ講」、これってハーレイ・ジョエル・オスメント主演で2000年に公開されたアメリカ映画『ペイ・フォワード 可能の王国』でやってましたよねえ。ええっとつまりパク…あああいかん後ろに拳骨を振りかざしたサルマーン・カーンの影がッ!?というわけで命の危険を感じたのでパク…疑惑についてはこれ以上触れません。

しかしなにしろこの「善意のネズミ講」、発想がそもそもコソバユく、「あっちでも善意!こっちでも善意!」とか描かれちゃうと観ていて居心地悪くてたまりません。アクション目当てで映画を観始めたら道徳の時間が始まっちゃうって、これって『エクスペンダブルズ』のDVDだと思ってたら中身が『愛は地球を救う』の録画だったぐらいの落差です。そのくせ言い出しっぺのジャイさんは「多分3人ぐらい助けてる筈だからもういーや」とでも思ったのか、その後はバイオレンスに次ぐバイオレンスの連続、これでもかこれでもかと悪漢たちをぶちのめし、画面一杯に血飛沫を飛ばしまくってくれています。おーいジャイさん!3人助けた後に30人ぐらい殺してないか!?まあサクッと悪モン2,30人ぶっ殺してくれたほうがてっとり早く世の中良くなるかもしれませんけどね。…じゃあ「善意のネズミ講」いらないじゃん…。

そんなですからドラマ部分にはあまり見る所はありません。それとヒロインがなんだかパッとしません。そうするとどうなるかというと、結局サルマーン・カーンさん以外に見る所が無い、要するに「オレのことだけを見てくれ!」というサルマーンさんのしたり顔ばかりが印象に残る、という構造の映画になってるんです。しかしアクションは悪くありません。特に電車まで巻き込んだバイクと車のチェイスシーンは「これ誰か死んでないか」と思わせるほどの派手さです。クライマックスなんて戦車まで出てきたよ!ってかサルマーンさん一人で戦車並みとも言えるけどね!しかしそれにしてもサルマーンさんって「筋肉付けた寺島進」って感じだよなあ。