暴虐と復讐の一大ドラマ、『スパルタカス』サーガ遂に終章。〜『スパルタカスIII ザ・ファイナル』


暴虐と復讐、愛欲と陰謀に満ち満ちた一大スペクタクル史劇ドラマ『スパルタカス』がこのシーズンIIIで遂に完結した。

紀元前73年、剣闘奴隷スパルタカスは、30万の逃亡奴隷と共に共和政ローマに反旗を翻した。世に言う「第三次奴隷戦争」である。ローマの陰謀により、村を焼かれ、奴隷にされ、妻を殺され、死と隣り合わせの剣闘士として明日をも知れぬ日々を生きるスパルタカスの、憤怒と憎悪が遂に爆発する時が来たのだ。ローマ軍を次々に打ち破り、牙城ローマへとにじり寄るスパルタカス軍。しかしローマは蛇の如く狡猾、獅子の如く勇猛な武将クラックスを討伐に送り込み、さらにのちにローマ終身独裁官となる若き日のガイウス・ユリウス・カエサルも参戦、スパルタカス軍は徐々に追いつめられてゆく。

物語はスパルタカス軍による城塞都市レギウムの占拠、海賊との結託、レギウムからの敗退、ローマ軍による雪のブルッティウム半島での封じ込め作戦など数々の史実を再現、そして「シラルス川の戦い」と呼ばれる最後の戦いへと、怒涛の如くなだれ込んでゆくのだ。スパルタカスに待つのは栄光か死か、それは史実が既に記すところではあるけれども、そこではいったいどのような熾烈な戦いが繰り広げられていたのか。どのような悲劇が待ち、どのような希望が語り継がれることとなったのか。いよいよ最終決戦の火蓋は落とされる!

堪能しました!血飛沫が舞い肉体が切り刻まれる強烈な残酷描写と、性器も陰毛も露わになった性交描写で、成人指定として放送されたアメリカのケーブルTVドラマシリーズ、『スパルタカス』がこの『スパルタカスIII ザ・ファイナル』で遂に終章を迎えました。これまでスパルタカスが剣闘奴隷となり謀反を起こすまでを描く『スパルタカスI』、その前日譚『スパルタカス序章 ゴッド・オブ・アリーナ』、いよいよローマ制圧へと動き出す『スパルタカスII』と続いてきましたが、この『III』は最後の決戦までを描くところとなります。回を追うごとにスケールが増し、同時に殺戮と血糊と屍の量を増していった『スパルタカス』シリーズですが、今作はもう戦いに次ぐ戦い、殺戮に次ぐ殺戮と、ひたすら戦闘シーンが続くことになります。

それと併せ、『スパルタカス』ならではのゲス極まりない暗黒鬱展開も忘れられてはいません。特にローマ軍を率いるクラッススの執り行う冷徹な軍規と策略、その息子ティベリウスの嗜虐に満ちた反逆など、ゲス過ぎて観ていて頭がトロケそうになるぐらいです。これは、「人間が人間に対してどれだけ残酷なことができるのか?」というひとつの陰鬱な逸話であると同時に、実際にローマ軍が行った戦略と作戦、殺戮行為のひとつでもあるのです。もちろん物語がなにもかも史実通りということはありませんが、調べる程に史実を巧みに取り込んだ物語であることが分かり唸らされます。そしてジュリアス・シーザーことカエサルがこの物語に登場し、スパルタカス軍に罠を仕掛ける様も物語を盛り上げることになっています。ただ、いつものセックスシーン大盤振る舞いは、無理矢理挿入(いや、そっちじゃなくて物語にって意味で!)されてるような気もしましたが。

それにしても、史実で既にスパルタカスの運命を知ってはいても、この物語でまさに戦いの神の如く無敵の強力さを見せるスパルタカスが、このまま破れることなく突き進んでしまうのではないか、という奇妙な幻想が、最後の最後まで何故か頭から離れることがありませんでした。映画『イングロリアス・バスターズ』が行ったような歴史の改編が、この物語にも持ち込まれるのではないか、という有り得ない希望が観ていて常に頭の隅にありました。それはまさに、長きに渡ってスパルタカスという男の悲痛で残酷な運命とその憤怒の核を観続けてきた自分の、剣闘奴隷スパルタカスへの深い敬愛だったのだと思えてなりません。本当に素晴らしい長編ドラマでした。

※前シリーズまでのレビューはこちらで:
「復讐!陰謀!愛欲!殺戮!成人指定TVドラマ『スパルタカス』がヤヴァいッ!ヤヴァ過ぎるッ!!」メモリの藻屑、記憶領域のゴミ