家から出たらぶっ殺される!?〜映画『Son of Sardaar』

■Son of Sardaar (監督:アシュヴィニ・ディール 2012年インド映画)


…やっぱりさあ、インドと言えばターバンだよね。
インド人全員がターバンをしているわけではなくて、シク教徒独特のもの、ということぐらいは知っておりますが、やっぱりどうもターバンしたインド人を見ると安心してしまいます(インドの皆さんスイマセン…日本もサムライとかニンジャとかゲイシャだらけだよ!)。これ、もともとシク教徒って教育が高く、イギリス統治時代に官吏などに多く登用され表舞台に立つことが多かったから、「インド=ターバン」というイメージが付いちゃった、ということらしいんですね。

シク教徒豆知識
イギリスでは、ターバンをするため、バイクの運転の時、ヘルメットを免除されている。

さて、そのシク教徒を主人公に据えたハチャメチャ・コメディ、それがこの『Son of Sardaar』なのであります。

主人公の名はジャスィー(アジャイ・デーヴガン)。ターバンを颯爽と巻いた彼は、ロンドンから故郷のインド、パンジャーブに戻る最中、スクミート(ソーナクシー・シンハー)という女性と知り合い、彼女の家を訪ねることに。当主であるサンドゥー家のビッルー(サンジャイ・ダット)はジャスィーを歓迎し、「ときにジャスィーさん、あなたのお家は?」と尋ねます。「はいはい!俺ランダワー家の生まれっす!」するとみるみる顔色の変わるビッルーさん!実はなんと、サンドゥー家とランダワー家は血で血を洗う敵同士、父親の仇だったのです!「すわ復讐!」剣を持って立ち上がるサンドゥー家の人々!しかしすぐにはジャスィーを亡き者にできない理由があった!実はサンドゥー家には「客人は神として敬うべし」とする家訓があり、家にいる間はジャスィーに指一本触れられない!一安心したジャスィーですが、ということは家から出られない!?そんなわけでサンドゥー家とジャスィーとの、一触即発の睨み合いが始まるのです!

もうね。冒頭からターバン巻いたジャスィーことアジャイ・デーヴガンさんがマブすぎます。浅黒い顔に髭面太眉、ぱっちりした目の濃いい顔で、爽やかな笑顔を浮かべてますが、実際アジャイ・デーヴガンさん、目が座ってます。目が笑ってないんです。陽気に歌い踊るオープニングでも、顏が怖いんです。そして顔が怖いくせにビッグベンの時計の針の上に立ってキメポーズしてみたり、なんだかわかんないけど逆さまになって降ってきたりします。そして絡んできたバイカーを腕一本で宙高くぶっとばしたりします。ここで「ああ」と気付きます。凄いマンガチックなオープニングから始まるこの物語、そもそもがマンガチックなものを目指して製作しているようなんですね。だからここから続く物語も、マンガ展開だと思ってリラックスして観ればいいというわけなんです。

さてマンガ展開なだけあってジャスィーさんの命を狙うサンドゥー家の皆さんもマンガチックにコワ〜イ顔した人ばかりです。だいたいみんな刀を空に振りかざしてわあわあ言いながら車に山乗りになって現われます。でも皆さん悪そうな顔している割にはジャスィーさんの嘘八百やフェイントにすぐ騙されて「あれれ?そうだったっけ?」なんて顏しちゃうオマヌケ振りはやっぱりマンガ的です。だいたいぶっ殺す気満々の相手が目の前にいるのに家訓のせいで家の敷地内では丁寧に扱わなきゃならない、なんてルール自体馬鹿馬鹿しくて可笑しいですよね。一方ジャスィーさんはジャスィーさんで、サンドゥー家の敷地内に軟禁状態で明日をも知れぬ身なのに、サンドゥー家の娘であるスクミートさんにデレデレしちゃったりしています。ジャスィーさん顏が怖いくせして緊張感ゼロです。しかもスクミートさんにフィアンセがいたせいでガッカリもしています。お前の優先事項はそっちなのかオイ!?

もちろん家にばっかりいても盛り上がりませんので、策を弄して家から脱走し、それを追いかけるサンドゥー家の皆さんとの大立ち回りも盛り込まれていて物語にきちんと変化があるんですね。しかもジャスィーさん、冒頭でも鉄腕ぶりを発揮していましたが、なにしろ強い強い。こんな強いなら最初っから戦ってりゃよかったじゃん、なーんてことは言ってはいけません。そんなこんなで最後の戦いにお話はどんどん収斂してゆくというわけです。この辺の、やっぱりコミック乗りのアクションシーンも結構楽しめて、全体的に肩の凝らないアクション・コメディ映画に仕上がっておりましたよ。

http://www.youtube.com/watch?v=RYmunAYFAxE:movie:W620