シーシュポス、あるいはプロメテウス〜映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

オール・ユー・ニード・イズ・キル (監督:ダグ・リーマン 2014年アメリカ映画)

  • 凶悪な異星人による地球侵略と、死ぬと何度もタイムループしてしまう兵士を描いたSF作品である。兵士は何度もタイムループしながら異星人に対する戦術を身につけてゆくのだ。トム・クルーズ主演のハリウッド大作だが、原作が日本人作家・ 桜坂洋氏のSF小説である(原作レビューはこちら)ことで注目を浴びている作品でもある。
  • 「死によって何度もタイムループしながら身につけてゆく戦術」、これはコンピューターゲームからの着想だという。何度もゲームオーバーとリセットを繰り返しながらその度に新たな戦術を練り直し、失敗したステージに挑む。目の前の状況は以前と同じだが、プレイヤーは以前よりスキルが上がっていて、難局を乗り越えることが出来る。
  • この理論でいくと無限回のリセットを繰り返せば究極のレベルまでプレイヤーの能力が高まることになってしまうが、物事はそんなに甘くない。
  • それは相手が解法困難、バグ満載、クリア不能なクソゲーだったときである。
  • 映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、単に「タイムループしてスキルを上げてゆく兵士の物語」ではない。この映画の真に凄まじい部分は、「クソゲー相手に無限回戦闘を繰り返さねばならない」という地獄の労苦のような宿命を背負う、というところにある。
  • これはゲーム云々というより、延々岩を山に運んではまた落とされるというギリシャ神話の「シーシュポスの岩」そのものだし、あるいは同じギリシャ神話の、再生能力があるばかりに岩に縛り付けられたまま延々ハゲタカに肝臓をついばまれるという拷問を受けるプロメテウスそのものではないか。
  • 神話の暗喩するところが人の営む人生の無為と徒労とその苦痛であると考えるならば、映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が描くものは、そのまま人生の無為と徒労とその苦痛を表しているのだ。
  • しかしこの作品はそれで終わらないのだ。その無為と徒労と苦痛の中ですら、決して諦めず、絶望することなく、たった一歩でも、数センチでも数ミリでも前に進もうとする主人公の姿を描くのだ。その一歩が、数センチ数ミリが果たして意味のあるものでなかったとしても。それは壮絶なものすら感じさせる。
  • 映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、そういった【人間的要素】こそが、深い感銘を与える作品だったのだ。
  • 主演のトム・クルーズはこういった作品にふさわしい俳優だったろう。不可能を可能にする男を描く彼の作品は、どれもひたむきだからこそ不可能を可能にするのだ。
  • また、『マイノリティ・リポート』『宇宙戦争』『オブリビオン』とSF映画の傑作に出演する彼は、この『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でも「名作SF映画のアイコン」として堂々たる演技を見せる。
  • 共演のエミリー・ブラントの線の細い外見ながら不屈の意思を見せる戦士像もまたいい。殺戮マシーンの如く戦闘を繰り返し、タイムループの中で精神が無感覚となった兵士であるにも関わらず、その中に微かに女性的な部分をうかがわせる絶妙さが素晴らしい。
  • 映画としては『スターシップ・トゥルーパーズ』『エイリアン2』といった傑作ミリタリーSF作品の系譜に燦然たる新たな1ページを書き込んだ作品として支持できる。個人的にはこの2作品と同等か、それを超える部分を持った作品として評価したい。

http://www.youtube.com/watch?v=nBs7vxHCvzg:movie:W620

All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)

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All You Need Is Kill 1 (ジャンプコミックス)

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All You Need Is Kill 2 (ジャンプコミックス)

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