息子を救うため潜入捜査に協力した一人の男のサスペンス・アクション〜映画『オーバードライブ』

■オーバードライブ (監督:リック・ローマン・ウォー 2013年アメリカ映画)


この『オーバードライブ』、主演のドウェイン・”筋肉ムキムキ”・ジョンソンが、麻薬密売容疑で捕まった息子を救うため、麻薬組織をぶっ潰す!という、実話をもとにした映画だと聞いて、「おお、ドウェイン・ジョンソンが自慢の筋肉を生かしてワルモノどもをちぎっては投げちぎっては投げ、さらに銃撃と爆発とカーアクションとついでにムフフなお色気がてんこ盛りになった愉快痛快お気楽至極なB級アクションなのだな!?」と勝手に思ってたんですが、実際観てみると大違い、結構渋くて緊迫感たっぷりのクライム・サスペンスだったのですよ。
最初に「麻薬密売容疑で捕まった息子を救うため、麻薬組織をぶっ潰す」とは書きましたが、これはドウェインさん演じる運送会社社長ジョンが、密売容疑で10年の刑をくらってしまった息子の刑を軽くしてもらう為に、司法当局に協力して麻薬組織への潜入捜査を始めちゃう、ってことなんですよ。「でもドウェインさんガチムチのコワモテだから、潜入捜査の一個や二個、ちょちょいのちょいでやっつけちゃうんじゃない?」と思ってたらさにあらず、なんとドウェインさん、この映画ではその辺のチンピラにあっさりボコボコにされちゃうぐらい非力な設定なんですね。要するに「あくまでごく普通の一般人が、息子のために危険な潜入捜査をはじめてしまう」という所がこの映画のミソとなるんですな。
「じゃあ主人公、ガチムチのドウェインさんじゃなくてもいいじゃん?」と思われるかもしれませんがそうじゃないんです。題材的に暗くてガチガチにリアルになりがちなお話を、筋肉パンパンなドウェインさんの存在感で補ってるんですよ。ドウェインさんは俳優としてはそんなに器用な方ではないとお見受けしますが、逆にそんな不器用な朴訥さが、寡黙で非力ながら強靭な意志で事態を乗り越えてゆく男の気風をうかがわせるんです。これが男前の演技派俳優だったらリアル過ぎてキッツイ作品になってたんだと思います。そしてそんな朴訥なドウェインさんの脇を、スーザン・サランドンバリー・ペッパージョン・バーンサルといった個性的な俳優を充てることで、物語に厚みを持たせるのに成功しているんですね。
しかもこのお話、最初は末端構成員との取引だけに潜入捜査すればよかったものを、司法当局が欲をかき、ジョンにさらに危険な取引場所への潜入を要請し出すんですよ。ここで止めれば息子を救うことが出来ない、しかし一つ間違えば自分のみならず家族の命も失うことになる、こういった一筋縄の行かなさが物語を複雑にし、面白さを増すことになるんです。そしてそんな葛藤の中にあるジョンを助けるのが、ジョンの部下で元麻薬売人だったダニエルなんですね。最初は嫌々だったダニエルが、次第にジョンの力強い助っ人になってゆく描写がまたいいんですよ!そして我慢に我慢を重ね、歯を食いしばって耐え忍んでいたジョンが、クライマックスではこれまでの緊張感を振り払うかのような怒涛のアクションを見せるんですよ!オレはついつい「オッサンやれ!やったれ!」と画面に叫んじゃいましたね!いい意味で裏切られたサスペンスの佳作でしたね。

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