『ビザンチウム』は雰囲気たっぷりだけど雰囲気だけの映画だったなあ

ビザンチウム (監督:ニール・ジョ−ダン 2012年イギリス/アイルランド映画)


インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の監督ニール・ジョーダンが、柳の下の泥鰌を狙ったんだかなんだかしてまたぞろ製作したヴァンパイア・ムービーであります。お話はざっくり申しますと、ヴァンパイア母娘の逃避行ってことになってます。
このヴァンパイア母娘、200年ぐらい前にヴァンパイアになったんですが、掟に逆らったがためにヴァンパイア組織に追われる身となっていたんですな。で、二人が辿り着いたのが海辺の寂れた避暑地。母ヴァンパイアはここで出会ったオッサン(なかなかにダメ男の雰囲気を醸し出していてナイスなオッサンです)をたらしこみ、オッサンの所有するアパートを娼館にしちゃいます。やり手ババアってことですな。で、このアパートの名前がタイトルのビザンチウムってことになっております。なんかアダマンチウムみたいな名前ですな。
一方、娘ヴァンパイアは難病患ってるもやしっ子セーネンと出会い、恋に落ちちゃうんです。この娘ヴァンパイアを演じてるのが『ハンナ』『ラブリー・ボーン』のシアーシャ・ローナンちゃんなんですな。いやあいいですなあシアーシャ・ローナンちゃん。今回も透き通るような美しさでオヂサン画面に釘付けですよ。そしてシアーシャちゃんと恋に落ちるセーネンをケイレブ・ランドリー・ジョーンズ君がやっております。このケイレブ君、『ソーシャル・ネットワーク』や『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』にも出演なさっておるようですが、オレ的にはむしろ、『アンチヴァイラル』で主演したなまっちろい顔したヘニョヘニョ野郎の印象強くて、この映画に出てきたときも「あ!『アンチヴァイラル』の変態君!」と思わず声に出しちゃいました。
でまあ、映画の出来はと言いますと、雰囲気たっぷりだけど雰囲気だけ、という雰囲気映画です。ヴァンパイア・ストーリーにつきものの孤独と漂泊と退廃と悲哀、そんなものを描きたかったんでしょうが、結局雰囲気だけで終わっているように見えます。この映画を観て思い出したのは、同様に孤独と漂泊を描いたヴァンパイア・テーマの作品『ぼくのエリ 200歳の少女』だったんですが、『ビザンチウム』には『ぼくのエリ〜』ほどの悲痛さや運命の過酷さを感じないんですね。生きるか死ぬかというぎりぎりの線が無い。それは『ビザンチウム』の母娘にそれなりの危機はありつつも、それが生死を分けるほどには逼迫したことのように思えないからなんですよ。
ドラマはあってもドラマチックさがないといいますか、予想通りの展開しか起こらず意外性に乏しく、どうにも盛り上がりに欠けるのは、この雰囲気頼りだった部分で災いしたのでしょう。ヴァンパイア母子愛っていうのがそもそも生きてない。むしろ主人公をシアーシャ・ローナン一人にしたほうが物語もまとまりよく出来たんではないでしょうかね。それだったら2時間ずっとシアーシャ・ローナンを愛でて楽しむ、実にオレ得な映画として出来上がってたんじゃないのかと思うんですけどねえ。

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