誰だって年を取るから〜映画『カルテット! 人生のオペラハウス』

■カルテット! 人生のオペラハウス (監督:ダスティン・ホフマン 2012年イギリス映画)

  • 引退した音楽家たちが余生を過ごす老人ホームで、ホーム存続の為にチャリティ・コンサートを開催しようと四苦八苦する老人たちを描くコメディ。名優ダスティン・ホフマンの初監督作品でもある。
  • 老人たちが主人公なだけに、お話のほうは優しく穏やかなものだ。頑固だったりエロだったりボケかけた老人たちがよちよちとホームを闊歩する。不仲で離婚したかつての妻がホームに入居してきて慌てふためく旦那が描かれる。チャリティ・コンサートにしたって、若かりし頃のようには唄えない、と頑なに拒み、コンサート成功を危うくする登場人物がいたりする。そして物語はそれらを温かな視線で描くのだ。
  • 物語はある意味定番通りの展開で、新鮮さはたいしたないにせよ、安心して観ていられる老人映画であることは確かだ。
  • また、全篇にクラシック音楽が使われ続けるので、クラシック好きの方にも楽しめるだろう。
  • 「引退した音楽家だけが入居できる老人ホーム」って、いやあ優雅だなあ、恵まれたもんだなあ、とやっかみ半分には思ったりする。こういう施設が本当にあるかどうかは別として、こんな場所で老後を過ごせるのは本当に少数しかいないのではないか、とは思う。
  • ただしかし、困窮だったり廃疾だったりみたいなものをリアルに描けばそれでいいってもんじゃない。そもそもこの映画では、こういったドラマにつきものであろう「死」すら描かれない。こういう理想郷みたいな優雅な老人ホームが描かれたっていい。リアルなものの陰鬱さはもう十分に知っているのだから。
  • それは若い人だって一緒じゃないのか。はじける様な生の謳歌、恋や性愛、理想や成功、豊かな生活、わくわくするような人生。そんな、リアルではないけれども、様々な憧れを抱かせる物語はごまんとあり、そんな物語を観て楽しむことは誰しもあるだろう。
  • でも、一人の年寄りとしては、そういうのは、もういいのだ。最近あまり映画を観なくなってきたのは、そういった類の物語がどうでもよくなってきたからだ、というのもある。
  • 年寄りになって思うのは、どんな年寄になるのか、ということと、年を取ると何が待っているのか、ということぐらいだ。だから近頃こういう年寄りの映画をボチボチと観る。まあ、なんの参考にもならないが、なるべく汚く生きないようにはしよう、とは思える。
  • 個人的なことを書くなら、自分にもこの年齢になってやっと獲得できた認識があり、その認識によって得られた充実感がある。
  • 自分は、ある程度、幸福なのだと思う。十分な幸福とはどういうものなのかは分からないが、少なくとも、自分の人生は、それほど悪くはない、と思えるほどには幸福だ。
  • しかしこれからも幸福なのかというと、それは分からない。人の生は無常なものであり、いろんなことが移り変わってゆく。
  • それでも、気丈な年寄になって、できるだけ頭をしっかりさせて、若いもんの迷惑にならないように生きていたいとは思うのだ。

http://www.youtube.com/watch?v=FORQrkqy9GE:MOVIE