優雅で感傷的なクンフー〜映画『グランド・マスター』

■グランド・マスター (監督:ウォン・カーウァイ 2013年香港/中国/フランス映画)


20世紀初頭の中国、功夫流派統一を巡り、継承者の座を奪い合う愛と復讐と因縁のドラマ、それが映画『グランド・マスター』なんでございます。物語の主人公はあのイップ・マン、これをトニー・レオンが演じます。さらにチャン・ツィイーが秘拳を操る美しき達人拳法家として登場、父を殺した仇敵を執念で追い詰め、さらにイップ・マンとの愛と宿命の戦いを繰り広げるんですな。
とまあ、粗筋と豪華出演者の顔ぶれを見て「おおこれは鉄拳飛び交い宙を舞う血沸き肉躍るカンフー映画が観られるのか!?」と期待してしまいますが、監督がウォン・カーウァイってところで「むむむ…」と腕組みして考えてしまいます。ウォン・カーウァイ…ゲイ映画『ブエノスアイレス』とか木村拓哉主演『2046』とかハリウッド進出映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』なんてのが挙げられるのでしょうが、オレにとっては公開当時結構流行った『恋する惑星』『天使の涙』止まりの監督なんだよなあ。逆にそれ以外の作品っていうと、どうにもとっつきが悪くくて、レンタルで借りてきて最初10分観ただけでギブアップした作品ばかり。こんなにとっつきの悪い監督はウォン・カーウァイぐらいです。なんかこう、もったりとした抒情性が苦手なのかもしれません。
映画は冒頭から多勢に無勢のカンフー映画らしい大立ち回りが描かれます。大勢の敵を鬼神の如くなぎ倒してゆく主演人物の無敵無双ぶりには目を見張らせられますが、こんなシーンでもウォン・カーウァイ、映像とカットが美しいんですねえ。スローモーションを多用したその動きがスタイリッシュなんですねえ。その後も人物描写やセットの描き方にウォン・カーウァイらしい独特の美意識を感じさせるものがありますが、この辺実に紙一重で、映像は一歩間違うと鼻につくし、物語展開は文芸調のまだるっこしさを感じさせてしまうかもしれないんですね。だから痛快カンフードラマ!と期待して観ちゃうと、やってることはわかるけどなんかスカッとしねえなあ、なんて感想が出てきそうになっちゃうんですね。
そんな感じで、決して悪くはないんだけど大丈夫なのか?とハラハラして観ていると、段々ウォン・カーウァイのリズムが呑み込めて来て映像やお話が素直に楽しめるようになってくるんです。気取りが強いとはいえ男たちはみんな水も滴るようないい男ばかりだしトニー・レオン演じるイップ・マンは惚れ惚れするような強さだし、なによりもかによりもチャン・ツィイーがあまりに美しい!この美しさで、しかも強い!しかもただ強力なのではなく、彼女の拳法は受け流しの多い実に女性的な技で、まさに柔よく剛を制す強さなのですよ。このチャン・ツィイーに見惚れていると映画の時間はだいたい過ぎてくれるので全然退屈しないんですね。
全体を通して非常に繊細さを感じさせるドラマで、そういった部分がカンフー映画らしくないと言えばらしくないのですが、先入観を抜きにして観れば独特の映像美を楽しめる見応えあるドラマだと感じましたよ。

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