”怒れる若者たち”を描くブリティッシュ・ニューウェーブ作品を幾つか

ブリティッシュニューウェーブとは、50年代後半〜60年代初期の短い間に制作された、イギリスの労働者階級の若者たちを主人公とするニュー・シネマを指すのだという。「社会的リアリズム」の映像化を目指し、”怒れる若者たち”の姿を描いたこれらの作品は、イギリス映画史上非常に重要なものであった…ということらしいのだが、実は自分はこういう映画の存在を知らなかった。たまたま紀伊国屋出版リリースのDVD目録で見つけたので知ったわけなのだが、音楽のほうの「ブリティッシュニューウェーブ」を知る者としてはなにか気になる。粗筋などを読むと『さらば青春の光』や『トレインスポッティング』の先駆けともいえるだろうイギリスの若者のドン詰まり感をひしひしと感じる事が出来る。しかしレンタルであるわけもないし、購入するにもちょっとした興味で手にするのにはちと高い。そういうわけでこれらの映画、実は観たわけではないのだけれども、自分の覚書用としてメモ代わりに日記に書いておきたい。

長距離ランナーの孤独 (監督:トニー・リチャードソン 1962年イギリス映画)

長距離ランナーの孤独 [DVD]

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低賃金で働かされ、あげくの果ては癌で逝った父親。男遊びにうつつをぬかす母。ノッティンガムの労働者階級の家に生まれ育ったコリン・スミスの日常は、転んでもただでは起きない。ある日、友人マイクと現金の入った手提げ金庫を盗んだかどで、少年院に入っていたコリン・スミスは、院長にその運動能力を買われ長距離走の選手に選ばれる。院長は近々行われる名門パブリック・スクールとの対校クロスカントリー・レースで相手側に一泡ふかせ、自らが統治する少年院の栄誉を得たいのだ。当初、反抗的だったコリンだが、将来はオリンピック選手にもなれると示唆され、まんざらでもない。ある日を境に一人早朝練習を重ねる。そして大会当日、トップでゴールに入ってくるが…。
怒れる若者たち"を代表する作家アラン・シリトーの原作・脚本で、『蜜の味』『トム・ジョーンズの華麗な冒険』『ホテル・ニューハンプシャー』などで知られる60年代ブリティッシュニューウェーヴの鬼才トニー・リチャードソンの監督作品。

■怒りを込めて振り返れ (監督:トニー・リチャードソン 1958年イギリス映画)

根強い階級社会と、戦後イギリス経済の不況に生きる若者たちのいらだちを代弁して一大センセーションを巻き起こしたジョン・オズボーンの出世作『怒りを込めて振り返れ』の映画化。
『蜜の味』『長距離ランナーの孤独』でブリティッシュニューウェーヴを牽引した鬼才トニー・リチャードソン初の長編監督作品。初DVD化
"怒れる若者たち"のバイブル
イングランド中部の町、若いジミーとアリソンは屋根裏でアパート住まい。ジミーは強情で自尊心の強い男だ。一応大学は出たけれど、仕事にあぶれ今は友人クリフと露店の駄菓子売りで生計を立てている。ジミーは世の中のことすべてが気に入らない。今朝も隣に間借するクリフと新聞を読みながら中身に毒づいている。そしてその不満の矛先はいつも、中流階級出身の妻アリソンへ向かってしまう。彼女が妊娠しているとも知らずに。
ある日、そんな日常に疲れ切ったアリソンを見かねて、親友のヘレナは彼女に一度父母のもとへ帰ることを勧める…。
救いのない激しい言葉の応酬や、誰かに叩きつけずにはいられない深い孤独。時代の無気力を自らの内側に抱え込んで葛藤する鼻持ちならない時代のアンチヒーローは、そのまま「トレインスポッティング」などひとすじ縄ではいかない現代のイギリス映画にもその息吹をはっきりと感じることができる。

■蜜の味 (監督:トニー・リチャードソン 1961年イギリス映画)

蜜の味 [DVD]

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18歳のシーラ・ディラニーが2週間で書き上げ、世界的な評判をとった傑作戯曲『蜜の味』の映画化。
監督トニー・リチャードソンの名を一躍世界に知らしめ、『ナック』でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞した名もなきリタ・トゥシンハムの実質的な処女作。
舞台はマンチェスター近郊の労働者の町ソルフォー。ファーストシーンは平和な女子校の体育の授業。体操着を着ていない女生徒がヒロインのジョーだ。彼女にとっては女子校も授業も退屈しのぎ。
ジョーが家へ帰ると、母親は今まさに女家主と家賃の滞納で一悶着。逃げるようにしてアパートを出て、新しい住居に落ちついたのもつかの間。母親は男と一緒に家を出ていくという。毎度のことなので驚きもしない。ジョーもまた黒人水夫とつかの間の愛をかわすが、水夫もまた彼女から去っていく。靴屋の店員となって自活をはじめるが、ある日彼の子供を妊娠したことに気づく。
やがてデザイン学校の学生でホモセクシュアルなジョフリーという青年と知り合う。奇妙な同棲生活がはじまる。いつしかジョーはジョフリーの包み込むようなやさしさに触れ、穏やかな生活を始めることになるが…。
18歳のシーラ・ディラニーが2週間で書き上げた戯曲をジョーン・リトルウッド率いるシアター・ワークショップが上演して大ヒット。世界的な評判となる。本作品は同名作品の映画化で監督トニー・リチャードソンの名を世界に知らしめ、「ナック」で主演した名もなきリタ・トゥシンハムの実質的な処女作。本作品でその年の英国アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀女優賞 、脚本賞 、最優秀新人賞を受賞。またカンヌ国際映画祭でも 主演のリタ・トゥシンハムとマレー・メルヴィンが演技賞を受賞している。

■土曜の夜と日曜の朝 (監督:カレル・ライス 1960年イギリス映画)

怒れる世代の代表的作家アラン・シリトーの処女小説で、イギリス中部の都市ノッティンガムを舞台に労働者階級の日常を描いた小説を映画化。チェコスロバキア生まれの俊英カレル・ライスが初監督し世界的に大ヒット。停滞するイギリス映画に別れを告げ、世界にブリティッシュニューウェーブの台頭を決定づけた傑作。本作で最優秀新人賞をとったアルバート・フィニーは、そのふてぶてしさと不適な面構えでブリティッシュニューウェーブの象徴的存在となっていく。初DVD化。HDマスター使用
「闘わないと、両親のようにいつのまにか飼いならされてしまう」。偽りの上昇志向などに踊らされず、だれにも邪魔させず自らの信ずる生活を取り戻していく若者を描いた辛口の青春映画。
21歳の主人公アーサー・シートンは英国ノッティンガムの工場で働く旋盤工だ。週給14ポンド。腕はいいが必要以上に働いて出世しようなどとは思わない。僅かな週末にはパブに通い、酒の飲み比べをしては気炎をあげる。わずかな給料を酒や女に使う。そんな享楽的なその日暮らしが性に合っている。同僚の妻ブレンダでさえ、彼にはただの女としかうつらない。
そんなある日、アーサーはパブで若い娘ドリーンと知り合う。さっそく口説いてドリーンとはデートを重ねブレンダとは情事を続けるが…。

■ブロンコ・ブルフロッグ (監督:バーニー・プラッツ=ミルズ 1969年イギリス映画)

怒れる若者たちを描いたブリティッシュニューウェーブからほぼ10年。1969年に製作された日本未公開のバーニー・プラッツ=ミルズの長編第1作『ブロンコ・ブルフロッグ』は、ロンドンのイースト・エンド、ストラトフォート地区に住む「ナッターズ(いかれぽんち)」と呼ばれる地元の少年たちと半ば共犯的に作り上げた。
伝説の映画である。
いまだ不況の風にさらされるイースト・ロンドン。デル・クワントは好きなバイクで町を抜け出し、ある時は恋人との逃避行で憂さを晴らす。「この辺りじゃ、することがないだろう」と彼は15歳のガールフレンドにつぶやく。恋人の名はアイリーン。見習工のデルには定職も金もないが、誰にも邪魔されない自由と意気の合った仲間がいる。廃屋のアジトにたむろし、店を荒らし喧嘩をする。そんな気ままな生活もつかの間。ある日、家出したアイリーンの捜索願いから追っ手が迫る。アイリーンとジョーと3人で逃げる先には埠頭の岸壁、どん詰まり、たとえこの先が不透明でも…。