自らの頭髪のように寒々しいアラスカの大地で連続殺人犯を追うニコラス君!〜映画『フローズン・グラウンド』

■フローズン・グラウンド (監督:スコット・ウォーカー 2013年アメリカ映画)

■ニコラス君とオレ

いつの頃からか、ニコラス・ケイジのことが奇妙に気になってしょうがないのである。好きな俳優か?と聞かれても「あーうーんえーっと」とお茶を濁すような答え方しか出来ないし、優れた俳優か?と聞かれてもよくわからない、と答えるしかない。名優か?とか、かっこいいのか?と聞かれたら「それはないね」と即答する自信だけはある。しかし、そんなニコラス君が出ている映画を、全部とはいわないが、結構よく観ている自分がいるのである。例えば、ハリウッド人気俳優の話題作、ということであるなら、トム・クルーズやジョニー・ディップやブラッド・ピットの映画は、よく観ているかもしれない。しかしニコラス君の出演する映画の多くは、まあちょっとニコラス君には悪いけどハリウッド人気俳優の話題作、というほどのものでもないのだ。にもかかわらず、どんな興味の無いテーマの映画でも、ニコラス君主演、と聞いただけで興味を示してしまう自分がいるのだ。
そんなニコラス君主演の新作映画『フローズン・グラウンド』が公開される、と聞いて、当然のことながらオレは「うっ…どうしよう…」と一瞬悩んだのである。ニコラス君の映画は、大抵、「これは面白そう!絶対観に行こう!」では無いのである。いつもだいたい、「うっ…どうしよう…」なのである。映画の内容を調べると、「実話を元にした、米アラスカ州アンカレッジ連続殺人事件を追う刑事の話」なのだそうである。「実話」がどうとか「連続殺人」がこうとかいうお話は、実のところ興味が湧かない。これがデヴィッド・フィンチャー監督でブラッド・ピット主演、というなら「お、面白そう」となるかもしれない。しかしニコラス君主演の犯罪映画、という段階で、既に「ああ…」となってしまうんである。
この「ああ…」はいわばひとつの葛藤の「ああ…」である。テーマには今更感を感じる。それほど話題にもなっていない。映画評を見てもいまひとつの事しか書いていない。しかも主演はニコラス君。ニコラス君が出ているから面白い、という保障はどこにもない。されどニコラス君。いつも奇妙に気になってしょうがないあのニコラス君なのだ。気にはなるが、わざわざ映画館まで…DVD出てからでもいいのかもしれない…。だが、その時オレは、一所懸命「見なくてもいい理由」を探している自分に気づいたのだ。それは「見たい」の裏返しではないのか?オレは、あれこれ難癖を付けながら、自分の本心を、偽っているだけなのではないかのか?オレはいったい何を偽っているのだろう?それは…実はニコラス君が大好きで堪らない、という気持ちなのではないのか?

■ニコラス君の頭頂の様に寒々しいアラスカの大地

先ほども書いたが、映画『フローズン・グラウンド』は、アメリカアラスカ州で12年前実際に起こった、連続殺人事件の物語である。ニコラス君は冷酷な犯人を追う刑事役だ。対する連続殺人犯をジョン・キューザックが演じている。おおジョン・キューザック…。これで不安材料がひとつ消えた…。タイトルが『フローズン・グラウンド』というだけあって、アラスカの凍てついた大地と雪の降る寒々しい町並みが、実に陰鬱に描かれている。その寒々しさと来たら、まるでニコラス君の頭髪そのものののようだ。そしてここでおぞましく陰鬱な事件が起き、それを陰鬱な音楽がまた盛り上げてゆくのだ。
映画は実に正攻法で事件を追って行く。少女娼婦シンディが暴漢から逃げ出すところから物語が始まる。シンディは「客は私を殺そうとした」と訴えるが、警察は単なる客とのトラブルとして取り合わない。それとは別に、身元不明少女の惨殺死体が凍った大地から次々と見つかるのだが、警察上層部はシンディの事件との関連性は無い、と判断する。しかしニコラス君演じる刑事はこれはクロではないのか、と独断で捜査を継続、シンディ暴行犯ハンセンと連続殺人事件との関わりを追ってゆくのだ。
映画では最初からこのハンセンが連続殺人犯である、ということを、彼の殺人シーンを挿入することで観客にあからさまにしている。だから物語は、犯罪が決して露呈しないと自信満々なハンセンと、彼を逮捕すべく証拠を集めるニコラス君刑事との執拗な応酬が繰り返されるサスペンスとして進行してゆく。
そしてこの犯人役ジョン・キューザックが、性犯罪者独特の気色悪さを絶妙な演技で見せてくれていて、なかなか悪くない。それに対しニコラス君も、眉間に皺をよせまくって大見得を切るいつもの演技ながら、過去に不幸を持ち、現在も家族と揉めている男のぶきっちょなナイーブさを演じ切り、あろうことか結構かっこいい。現実でも借金で揉めている苦悩や毛髪の悩みを、こういう所で演技に昇華しているに違いない。さすがだ。10代の少女娼婦シンディを演じるのがヴァネッサ・ハジェンズ。過去の性的虐待から家を出、娼婦に身を落とした少女シンディの悲哀を、これも巧みに演じていた。『タクシー・ドライバー』好きのオレとしては10代の少女娼婦役と聞いただけでジョディ・フォスターを思い出しビククンとしていた。
全体的に見ると、オーソドクスな描写のあり方は人によって古臭く見えることもあるだろうし、当然、フィンチャー的な犯罪映画の切り口などは望むべくも無いのだけれども、逆に手堅い安定感があり、没入して作品を観る事が出来た。そして全編を通して陰鬱なロケーションと演出が非常に効果的であったと思うし、俳優それぞれの存在感も確かであり、作品に垣間見える登場人物たちの情動にも共感できるものがあった。シンディとニコラス君刑事が、過去に負った心の傷から世代を超えて共感しあい、ニコラス君が少女に精一杯救いの手を差し伸べようとするシーンなどは実にエモーショナルな演出であったと思う。こういうウェットな描写にニコラス君は強い。要するに面白く見られたわけだよ。そんなわけでこの『フローズン・グラウンド』、オレは結構満足だったな。