【日本公開記念再録】超能力を持ってしまった若者たちの友情と破滅の物語〜映画『クロニクル』

(映画『クロニクル』がやっと日本公開されたようですね。このエントリはなかなか公開されないこの映画の輸入盤Blu-rayを観て2012年12月5日に更新したものですが、公開記念ということで一部だけ内容を変えて再録しておきます)

■クロニクル (監督:ジョシュ・トランク 2012年アメリカ映画)

  • あることがきっかけで超能力を手に入れた3人の高校生。最初は面白がり悪戯に使って遊ぶ彼らでしたが、次第に強力になってゆくその力はどんどん危険なものと化してゆき、やがて3人は…という物語をP.O.V.視点で描いた日本未公開SFムービーです。
  • 主人公はイケてない学校生活と破綻した家庭生活の狭間で鬱屈した日々を送るアンドリュー、そしてそんなアンドリューを励まそうと何かと世話を焼く従兄マット、そんな二人と何故か意気投合した学校の人気者スティーヴ。彼らはある日森の中の空き地に突然現れた穴を発見し、好奇心からその穴の奥への探検を決行する。そしてそこで見つけた不気味に輝く"何か"に触れてしまった3人は、念じるだけで物を動かしたり、自らを空に飛ばすことができるといった、超常能力を身に着けてしまったことを知る。意気揚々と超能力で遊ぶ3人の高校生。しかし、その力で父を傷つけてしまったアンドリューは塞ぎがちになり、その超能力を凶暴な方向へと暴走させ始める…。
  • 超能力を持った若者たちの青春を描いた映画といえば、最近では例えば『ジャンパー』や『アイアム・ナンバー4』などが挙げられますが、これらが"超能力者vsそれを狩る者"との戦いの物語といった、ある種のアクション映画として成立していたのと比べ、この『クロニクル』は、強大過ぎる自らの能力に苦悩し押しつぶされ、最後に破滅してゆくという、悲劇の物語として語られているといった点で、クローネンバーグの『デッド・ゾーン』により近い感触を持った作品として完成しているんです。
  • そしてまた、P.O.V.視点の導入は、この物語の主人公たちの行動と心情を、異様なほどに生々しく、より臨場感たっぷりに画面に焼き付け、P.O.V.視点の傑作ディザスター・ムービー『クローバー・フィールド』と同じく、このスタイルの非常に成功した例として評価することができるでしょう。
  • 自らの思ったままに自由に物体を動かし、そして空を縦横無尽に飛び交い、さらにはその強大なパワーであらゆるものを破壊し、あたかも神の如く全ての上に君臨する。こういった全能感、高揚感を、主人公たちと共に共有し、その能力の恐ろしさを、主人公たちと共に感じる。『クロニクル』が成功しているのは、そういった主人公との一体感、ヴァーチャルな共有感を、映画を観る側がダイレクトに手に入れることができる、そういった部分があるからなんですね。
  • そしてもう一つ、この物語で特筆すべきなのは、"ホモ・ソーシャル"と表現していいほどの、主人公たち高校生3人の、濃密で親密な関係性でしょう。
  • "超能力"という秘密を共有した3人は、その秘密ゆえに、まるで恋人同士でもあるかのような、強烈な親密性の輪の中にお互いの身を寄せ合います。その友情のありかたは、その愛の強さゆえに、容易く憎しみへと変わってしまうのです。そしてこの強烈な親密性それ自体が、P.O.V.視点の導入があることで、またしても観るものに、自らもまたその輪の中にいるかのような錯覚を覚えさせるのです。
  • 高揚感と恐怖に満ちた超能力の描写、その能力を持った者同士の強力な親密性、これら、ビジュアルと内面性の両方で、P.O.V.視点が恐るべき表現力と説得力を発揮しているといった点で、映画『クロニクル』は稀有な完成度を誇る映画として観ることができるのです。傑作です。
  • 超能力というテーマを選んだことについて、この映画の監督ジョシュ・トランク大友克洋の『アキラ』『童夢』の影響を言及していますが、自分はむしろスティーブン・キングの諸作品、特に『トミー・ノッカーズ』あたりの感触に近いものを感じました。たぶんそれは、この映画に存在する"絶望"と"破滅"の臭いからなのだと思うんです。
  • そしてこの映画の存在はカトキチ君の運営するブログ『くりごはんが嫌い』のエントリ「POVが持つ弱点を克服した大傑作!『Chronicle』」 で知る事が出来ました。こちらのブログも併せてご覧になってくださいね。