御大フリードキンの『キラー・スナイパー』は奇っ怪な可笑しさに満ちた秀作ノワールだった!!

キラー・スナイパー (監督:ウィリアム・フリードキン 2011年アメリカ映画)


ウィリアム・フリードキン監督と言えば『フレンチ・コネクション』や『エクソシスト』で名を馳せた大御所なんでしょうが、最近はあんまり名前を聞かないし、何やってるのかなあ?と思ったら目についたのが 2011年作のこの『キラー・スナイパー』。タイトルからしてなんだか安っぽいアクション映画を想像してしまったんですが、映画好きの人からは妙に評判がいい。いったいどのへんがどう面白いのかなあ、と興味半分で観てみたところ…これがなんと、シュールとさえ言える様な不思議な可笑しさとブラックな味わいに満ちた傑作だったんですよ!

確かに物語の骨子はよくあるクライム・サスペンスをなぞっています。しかし、この物語に登場する連中が、揃いも揃ってどこか変なんです。そのお話はというと、貧乏こじらせ過ぎたバカ一家が、保険金殺人を企てる所から始まります。しかしバカでヘタレのこの一家、自分らじゃ手を下せないから殺し屋を雇うことに。しかも現れた殺し屋に、殺しの料金を後払いにしてくれとかセコイことを言いだすんですね。そりゃあ貧乏こじらせまくってる連中ですから、そんなお金なんかあるわきゃ無い。

殺し屋は最初ふざけんじゃねぇ、と断るんですが、一家の12歳の末娘を見たとたん態度を豹変。「あの娘を担保代わりに差し出すんなら考えてもいい」とか言いだすんですよ。おいおいこの殺し屋ロリコンだったのかよ!?しかも娘は娘で「えへへ〜いいかも〜」と殺し屋の言うことを承諾、かくして殺しが成功し報酬を得るまで、このバカ一家と殺し屋が一つ屋根の下で共同生活を始めちゃうんですね!いったいどうなってんだこのお話!?

まず殺しを依頼するホワイト・トラッシュ一家がどいつもこいつも下品で低能で馬鹿という香ばしいまでのクズ揃い。お母ちゃんはマ〇コ丸出しで部屋をウロチョロしているし、お父ちゃんはなんだかぼんやりしていて状況をまるで把握していないし、息子は借金取りに追われてボコられまくってるし、娘はちょいと頭が弱かったりする。そしてこいつらと絡む殺し屋はなにしろロリコン、さらに後半では大変態大会までおっぱじめてくれるので変態大好きの方はお楽しみに!このロリコン野郎、マシュー・マコノヒーが演じていて、無表情な顔しながら訳の分かんないことをやりまくってくれます。

もともとの原作が舞台劇だったらしく、そのせいか構成がきっちりしていて、バカとクズと変態しか登場しないのに奇妙な知性を感じさせます。登場人物のどこかネジが一本二本外れた様なみょうちきりんな言動と行動は、スラップスティック映画のものというよりも、どこかデヴィッド・リンチ映画を思わすようなシュールささえ醸し出しているんですよ。そして、何考えてるんだか分かんない連中が唐突に「…は?」と観ている者の虚を突く様な行動に出る、さらに奇妙なセンスに裏打ちされた奇妙なノワールである、といった点ではニコラス・ウィンディング・レフン監督の出世作『ドライヴ』を思い出しました。それと全体の微妙に狂った雰囲気ヴェルナー・ヘルツォーク監督作『バッド・ルーテナント』を髣髴させていましたね。

しかしヘルツォークはともかく、リンチにしろレフンにしろ、今年78歳になるというベテラン監督ウィリアム・フリードキンから見りゃあ全然ひよっこ、嘴の青い若輩者ですよね。まあ意識なんか全然してないでしょうが、フリードキンにしてみたら、「リンチ?レフン?あんなの、こんなふうにちょちょいのちょいでやれちまうぜ?」なーんて余裕で言い切っちゃうだろう、そんな奇っ怪な快作として仕上がっていましたね。それにしてもあの狂乱のクライマックスと「…え?」と唖然とさせられるラスト、いやこれ、日本未公開DVDスルーにしておくには絶対もったいない作品だと思いました!