超高速で動くゾンビ軍団が世界を襲うディザスター・ムービー『ワールド・ウォーZ』

ワールド・ウォーZ (監督:マーク・フォースター 2013年アメリカ・イギリス映画)


ホラーやサスペンス映画のジャンルでオレが一番苛立ち興醒めするパターンは以下の3つである。

1.鬱陶しい女がいる。
2.鬱陶しいガキがいる。
3.一握りのバカのせいで全体が危機に陥る。

シナリオにこの3つを使えば容易く心情に訴えられ、容易く危機を作り出すことができる。だが安易なので苛立つし興醒めする。あと題材にもよるがこれもうんざりさせられる。

テーマは家族愛。

大事なのは親兄弟!大事なのは嫁とガキ!…まあ判りやすいんだが、これも心情に訴えるのには容易いやりかたなので、あんまりあからさまだと嫌気が差す。
…というわけでこれら全部の要素を兼ね備えたのがついこの間公開されたブラッド・ピット主演のゾンビ映画、『ワールド・ウォーZ』なのであるが、あにはからんや、これだけイヤ要素が詰め込まれているにも関わらず、大変面白く観ることができました。
さらにこの映画、ゾンビ・ホラーとして観ると否定的になりそうな部分も幾つかある。

・血があんまり出ない。
・肉体破損が描かれない。
・当然ハラワタや切り株描写もない。
・ゾンビなのにあんまり腐ってない。

等々である。つまりホラーとして観ると「不快」「不潔」「不気味」の3つの「不」が描かれてはいないのである。しかし実際のところ、この映画はホラーに拘った映画でもなんでもなくて、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』というよりはローランド・エメリッヒ『2012』のようなディザスター・ムービーであり、そして作品の感触としてはスティーヴン・ソダーバーグの『コンティジョン』が一番近いだろう。
高い致死率を持つ感染症パンデミックを描いた『コンティジョン』は、感染症の発生とパニック、国際的な危機と各国政府の対応、病理解明と収束までをジャーナリスティックに描いた佳作だが、これの感染症をゾンビに代え、派手なVFXではったりと娯楽要素を高め、さらに中心に一個の家族を持ってくることでベタなケレン味を加えたのがこの『ワールド・ウォーZ』ということが出来るだろう。そしてその出来はというと、先に挙げた幾つかの否定的要素はあるものの、全体的には巨視的な視点でゾンビ禍を描いた、なかなかに楽しめるアポカリプス映画であった。
まずなによりもゾンビ映画史上最速で動き回りしまいには宙まで舞ってしまうゾンビ集団の描写が非常に素晴らしい。予告編で観て一番ヤラレタのがこの辺の描写で、ある意味ゾンビというよりは無数のアリンコの群れ、ないし蜂の群れのを思わせ、「魂の無い一つの膨大な集合」という意味で確かに虫の集団行動のように見える。そしてこれはポール・バーホーベンの傑作SF映画『スターシップ・トゥルーパーズ』の昆虫型宇宙生物軍団そのものではないか。倒しても倒しても後から後からわらわらわらわらと湧いて出る敵との気の遠くなるような戦い。その恐怖感と徒労感をこの『ワールド・ウォーZ』でも巧みに表現されているのだ。
作品の見所はやはりイスラエル崩壊シーンだろう。周囲を壁で覆い文字通り鉄壁の守りを備えたイスラエルが一部のバカのせいで堤防が決壊するが如くあっという間に崩壊する。この崩壊の恐るべきスピード感が堪らない。主人公演じるブラッド・ピットはここで一人の女イスラエル兵士を助け、そしてこの女性がこの物語の鍵ともなるのだが、この女性を演じるダニエラ・ケルテス、兵士ということで丸刈りのヘアスタイルなのにも関わらず実に魅力的だった。ブラピも鬱陶しくて不細工な嫁の事なんか忘れて彼女と新世界への逃避行をしたほうがよかったのではないか、物語とは全く関係ないのだがオレはなぜかずっとそんなことを考えていたのであった。
それにしてもこの『ワールドウォーZ』、3Dで観たのだが、隣の方の口臭が酷く、死臭のようなその臭いは3D以上にゾンビ映画の臨場感を高めてくれたのであった。

WORLD WAR Z〈上〉 (文春文庫)

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WORLD WAR Z〈下〉 (文春文庫)

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