CANのことは何にも知らなかったから最初に『Lost Tapes』を聴いてみた

■Lost Tapes / CAN

Lost Tapes
大昔(1968年)から活動しているドイツのロック・バンド、CANといえば名前こそ知ってはいたけれども、その音を積極的に聴こうと思ったことはないし、またどういう音を出しているのかも皆目知らずこの間まで過ごしていたのであります。だいたいドイツのロック・バンドって、もうドイツっていうだけで面倒くさそうなんだもの。なんか前衛的なんだろうなあ、すなわち訳分かんないだけでつまらないんだろうなあ、と勝手に印象付けて蓋締めてたんですねえ。しかしエレクトロニック・ミュージックなんぞを聴いているとやっぱりやたら名前が出てくるバンドなのも確かで、そんなもんだからつい先ごろ発表されたCANのアウトテイク・未発表音源集『Lost Tapes』を試聴してみたらそれまで勝手に抱いていたイメージと全然違って実に聴きやすく、そして面白い。じゃあこの際だから、ということで衝動的にエイヤッとばかりにこの『Lost Tapes』を購入しちまったわけなんですよ。
しかしねえ、考えるに、それまで一度も聴いたことの無いバンドのディスクを購入するときってェのは、それなりにディスコグラフィー調べて、名作と呼ばれている作品とか、そうじゃなけりゃベスト・アルバムとか買って聴いてみるもんじゃないですか普通。それがいきなりアウトテイク・未発表音源集から入る、というオレもオレですよね。でもね、なんかこう、CANに関しては(ダジャレじゃないってば)こういう聴き方、初体験の仕方もありかな、なんとなくそういうふうにも思えたんですよね。聴く前から掴み所がないバンドだったんですから、一番掴み所の無さそうなディスクから聴いたって一緒じゃないか、ってね。
で、3枚組のこのアルバム(そもそもいきなり3枚組から入るっていうのもなんだが)、聴き通してみると、これがなんと、かな〜り面白かったんですよ!CANほども歴史が長く一部かもしれないが有名なバンドに対して、「これはこういう音だ!」と言い切っちゃうのも僭越だしそもそも言えるほど自分の音楽的理解力が高いかどうか疑問なんですが、それでも自分なりにCANの音に接してみて思ったことは、「これパンク以降のオルタナティヴ/ニューウェーブより全然早くその手の音を、しかもずっと超絶的な技巧でやってたバンドだったんじゃん!」ということでしたね。もうね、パンク/オルタナティヴ/ニューウェーブなどのポスト・ロックで聴いていた音の源流が、手に取るように聴こえてくるんですよ。逆に言えば、あれらの音って、CANを模倣することから始まったんじゃ?とさえ思ったぐらいだったんですよ。さらにそのインプロヴィゼーションの在り方なんかは、プログレッシヴ・ロックキング・クリムゾンのそれよりも音楽的に技巧的かつ余裕すら感じて、商売人のロバート・フリップの音よりも豊潤に聴こえたりもするんですよね。要するに楽しめるんですよ。
自分はロックの持つブルース臭さが嫌いで、なるべくそこから逸脱したようなロックを聴いていたんですが、ポスト・ロックの音にはブルースからの逸脱が顕著で、さらにエレクトロニック・ミュージックにはブルースの片鱗もない(半可通で言ってるので間違ってたらスマン)、という部分でいやもうオレにはこの音楽でいいじゃないか、というのがあったもんですから、そういうブルースっぽいロックから逸脱した、というかロックのように聴こえて実は別のことをやっているようにしか聴こえない、そもそも真剣にロックのフォーマットにこだわったりしていないように聴こえるという点で、CANの音がポスト・ロックの連中と共通しているのもむべかるかな、と思えたわけなのですよ。そういった部分で、録音された年代は古いのに、スピリットが全然新しい、という点が、オレがCANを聴いておもしれえなあ、と思えた部分なのじゃないかな、と半可通なりに考えてみたわけですハイ。
この『Lost Tapes』、LPレコードのジャケットよりも小ぶりな大きさのボックスに入っていて(オープンリールの箱を模したものらしい)、その中に3枚のCDとカッコいいブックレットが収められています。3枚のディスクで聴ける全30曲はトータル性もへちまもないカオスなセレクトですが、逆にそのカオティックな音の連なりがどこまでも刺激的で、どこからどう聴いても美味しい、そして素晴らしい作品集になってるんですね。もうずっとロックの音とはおさらばしてたし、さらに自分もいい歳なんもんだから新しく聴く音にはついていけないだろうし、多分もうロックなんか聴くことなんかないだろうなあ、と思ってたもんですから、こうして突発的にCANという結構な年代を経たロック、しかも初めて聴くロック・バンドの音を聴いてそれにはまるなんて自分でもびっくりでした(とか言っといて実はマイブラのリマスターも最近よく聴いてるけど)。CANとかこれからも長い付き合いをしたいなあ。
●Lost Tapes / CAN 《試聴》


Lost Tapes

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