ジョン・スコルジーの『老人と宇宙(そら)』4部作読んだ (その2)

■最後の星戦 (老人と宇宙3)

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

最後の星戦 老人と宇宙3 (ハヤカワ文庫SF)

コロニー防衛軍を退役したジョン・ペリーは、植民惑星のハックルベリーで、ゴースト部隊出身の妻ジェーンと養女ゾーイとともに平穏な日々を送っていた。だが、ある日、思いもよらない要請を受ける。かつての上司リビッキー将軍から新たな植民惑星ロアノークを率いる行政官になってくれと頼まれたのだ。やがて、ジョンは新たな戦いに巻きこまれていくが…『老人と宇宙』のジョンがふたたび大活躍するシリーズ、第三弾。

1作目の主人公ジョン・ペリーが再び登場し、元妻のDNAを持つクローン、ジェーンを妻とし、さらに2作目でジェーンが救った「人類の裏切者の娘」ゾーイを養女として迎え、一般人として植民星で平穏無事な生活をしているところから物語は始まります。そんなジョン一家でしたがある日突然、行政官として異星植民地へ旅立つよう要請されるんですね。しかし到着した筈の植民惑星は、実は予定されていた星と全く別の惑星であり、さらに通信に関するテクノロジーを全て捨てるように、と命令されてしまうんですね。実はこれは、人類のコロニー連合と、コンクラーベと呼ばれる異星人連合との根深い対立が背景に隠されており、ジョンたち植民者はその為の駒として利用されていた、というわけなんです。植民地住民殲滅を図るコンクラーベに迎え撃つ手はあるのか、そしてコロニー連合の計略の真意は何か、という緊迫した物語がここでは展開されます。武器もたいしたテクノロジーも持たない数千の植民地住民を率い、残虐なコンクラーベと信用のできないコロニー連合という二つの巨大な敵を相手にしながら、しかも植民星の住人たちを脅かす凶暴な原住生物まで闊歩している中を、生き残りを賭けてジョンとその家族は戦います。しかしこの八方ふさがりの状況の中でも、ジョン一家の結束は確固たるもので、そしてジョンは相変わらずユーモアを忘れません。そしてこの物語を一層ユニークにしているのは、かつてゾーイの本当の父に「意識」を与えられた異星生物が、ゾーイのボディーガードとして活躍することですね。練りこまれたプロットと銀河全てを巻き込んだ壮大な物語、危機また危機の中を知恵と勇気を振り絞って乗り越えてゆく登場人物たち、やはりここでも語られる家族愛、そして感動的なラスト、第41回星雲賞海外長編部門賞を受賞した『老人と宇宙』シリーズの最高傑作です。

■ゾーイの物語 (老人と宇宙4)

ゾーイの物語 老人と宇宙4 (ハヤカワ文庫SF)

ゾーイの物語 老人と宇宙4 (ハヤカワ文庫SF)

波瀾にみちた幼年時代を送った少女ゾーイは、コロニー防衛軍を退役したジョンとゴースト部隊出身のジェーンの養女となり、植民惑星ハックルベリーで幸せな日々を送っていた。やがて両親とともに新たな植民惑星をめざすが、宇宙船は目的の星に到着しなかった。しかも、ゾーイたちは思いもよらない陰謀にまきこまれていく…『最後の星戦』をゾーイの視点から描き、その知られざる冒険の旅を明らかにするシリーズ第四弾。

『老人と宇宙』シリーズは一応前作『最後の星戦』で完結しているのですが、この『ゾーイの物語』はファンの熱望によって描かれた『最後の星戦』のもう一つの物語なんです。それは主人公ジョンの養女ゾーイの視点から描かれた『最後の星戦』なんですね。10代の少女が主人公ということで、作品自体はヤングアダルト向けの筆致になっており、お年頃な一人の少女のやんちゃな語り口調が読んでいてちょっとこそばゆいものになっております。正直に言うと前半まではこの少女な口調と殆どこれまでの物語で知っていることしか描かれていない為に少々退屈したんですが、これが中盤、植民地を守るためにゾーイがある決断をし、隠密裏に星々の彼方にいる異星人種族を訪ねるために旅立つあたりから物語の流れは一変します。そしてここで大きく関わるのは、『最後の星戦』でも登場したゾーイの異星人ボディガードの存在なんですね。この異星人種族は、その異星種族全体がゾーイへの忠誠を誓う、という異様なシチュエーションを持っており、そんな中で「普通の女の子でいたい」と願うゾーイの心象もまた物語をとても人間臭くしているんです。そしてさらにこれは、様々な苦難に満ちた戦い、新しい出会いと悲しい別れを通した少女の成長物語でもあるんですね。そして物語は大団円を迎えるという訳です。