そこは底知れぬ奈落、光一つ差さない深淵〜スロッビング・グリッスルの別ユニット「X-TG」と「カーター・トゥッティ・ヴォイド」

■Desertshore / The Final Report // X-TG

Desertshore / The Final Report
スロッビング・グリッスル(TG)といえばポスト・パンク時代、暗黒の如きインダストリアル・ノイズ・ミュージックを鳴り響かせていたカルト・グループだ。自分もよく聴いていたものだが、まあ鬱展開甚だしい音で、聴けば聴くほど死霊に取りつかれたかのように憔悴したものである。若い時ってそういうこともあるものさ…。そのTG、最近の活動状況はよく知らなかったのだが、度重なる活動停止・名義変更を繰り返しながら2010年までは活動していたのらしい。しかしメンバーの一人ピーター・クリストファーソンの死去(これにも驚かされたが。享年55歳といえばまだ若いだろう)に伴い2011年に実質解散となったのだという。

亡くなったピーター・クリストファーソンはTGのメンバーのみならず、アート集団ヒプノシスのデザイナーとしても有名だった。彼の手掛けたアルバム・ジャケットは、ピンク・フロイドの『炎・あなたがここにいてほしい』『アニマルズ』、さらにピーター・ガブリエルのソロ1〜3作、どれも鮮烈なアートワークだったし、プログレッシヴ・ロックを聴いていた者にとっては超有名作ばかりだ。PVでもその手腕は大いに発揮され膨大な作品を残している*1
炎 あなたがここにいてほしい アニマルズ ピーター・ガブリエル I(紙ジャケット仕様) ピーター・ガブリエル3

さてこのアルバム『Desertshore / The Final Report』はコンセプトの違う2つの別プロジェクトのアルバムをカップリング・リリースしたものとなっている。まず1枚目、『Desertshore』はヴェルヴェット・アンダーグラウンドに在籍しその後ソロでも活動していたニコのアルバム『Desertshore』をカバーした作品。そもそもニコのカヴァー、しかもまるまるアルバム1枚、という段階でこのアルバムがいかほどに暗黒面に足を突っ込んでいるのかが分かるというものである。もともとはピーター・クリストファーソンが生前企画していたのだが、彼の死後メンバーであるクリス・カーターとコージー・ファニ・トゥッティが引き継ぎ完成させたのらしい。参加メンバーはアントニー&ザ・ジョンソンズのアントニー・ヘガティ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンブリクサ・バーゲルト、ソフト・セルのマーク・アーモンドらで、ポスト・パンク世代にはお馴染みの名前がちらほら並ぶ。その中でハイライトとなるのはマーク・アーモンドが悩ましく歌い上げる「THE FALCONER」だろうか。いやしかしこの歳になってまたマーク・アーモンドの歌声で心を動かされるとは思わなかった(昔とても好きなシングルがあったんですよ)。

2枚目の『The Final Report』はJ・P・オリッジを除くオリジナル・メンバー3名によるレコーディング・セッションの音源。J・P・オリッジ抜きなのでTGではなくX-TGということなのらしい。音的にはまぎれもなくTGだが、エレクトロニクス的な進歩もあるせいか、昨今のインダストリアル/ドローン系の音と比べ遜色がないどころか桁違いの凄味と深みを見せる。もはや凶悪と言っていい。その深淵を覗くかのような暗黒ぶりはやはりTGがインダストリアル・ミュージックの中心部であり出発点であったということを再認識させてくれた。その年季を積み過ぎたドス黒さは既に付喪神と化しさらに悪霊やら動物霊やらが憑いて暗闇でウケケケケと哄笑を上げているようですらある。しかし…しかしだ。かつてTGを頻繁に聴いていた20代の頃、「これ以上こんな真っ暗な音を聴き続けるのはヤダ」と心底思ったように、このX-TGの2枚組を聴き続けるのは正直気分が鬱々として来て相当キツい。逆に言えばそれだけ魂をどこかに持ち去られてしまうかのような音だということが出来るのだが、どちらにしろ、現在このX-TGの2枚組は自分の中で封印中である。それにしても30年以上こんな音を出し続けてきたTGメンバーのメンタリティにもいろんな意味で恐れ入るが。 
《試聴》

Desertshore / The Final Report

Desertshore / The Final Report

■Transverse / Carter Tutti Void

Transverse
一方こちらはTGのメンバー、クリス・カーターとコージー・ファニ・トゥッティの二人とイギリスのポスト・パンク・トリオ、ファクトリー・フロアのNik Colkが組んだコラボ・ユニット、カーター・トゥッティ・ヴォイド。クリスとコージーはもともとTG休止中に”クリス&コージー”というユニットを結成して活動していたが、それに若者を加えてのアップ・トゥ・デイト版だと思えばいいのかもしれない。クリス&コージーの頃はトライバルなリズムに挑戦したりとか実験的なことをしていたが、このアルバム『Transverse』に関しては見事にTG。つまり例によって暗黒ノイズが光りひとつない深淵の彼方で咆哮するどこまでもインダストリアルなTG、というわけである。そもそも今回参加したNik Colkのバンド、ファクトリー・フロアというは聴いたことが無かったので調べてみたらこれがジョイ・ディヴィジョンスロッビング・グリッスル…。どうしてみんなこんなに奈落の底に落ちたくてたまらないのだろうか。とりあえずオレはもういい、ただでさえ仕事がキツいんだ、別にJ-POPのカス以下な応援ソングが聴きたいと言っているわけではないが、もうちょっとタフに生きさせてくれ、せめて酒の飲める夕方までは。というわけでこのCarter Tutti Voidの『Transverse』もX-TG同様、決して聴かないように封印中である。…音楽聴くのがこんなにしんどくていいのかよ…。 《試聴》

Transverse

Transverse