70年代東映テイストの"ずべ公"バイオレンス・アクション、沙村広明の『ベアゲルター』

■ベアゲルター(1) / 沙村広明

ベアゲルター(1) (シリウスKC)
梶芽衣子の昭和任侠・バイオレンス映画に物凄く興味を惹かれた時期があった。というのもオレはタランティーノの映画『キル・ビル』がオールタイムベストに入れて良い位愛する映画なのだが、この映画の一部は梶芽衣子の『修羅雪姫』にオマージュを捧げたものであると知ったからだ。その後観る事が出来た映画『修羅雪姫』は確かに噂に違わぬ最高にイカレた最高にイカした作品だった。だが、それから梶芽衣子映画を続けて観たかというとそうでもなかった。興味を無くしたわけではなく、逆に面白過ぎてとことんハマリそうでヤヴァイものを感じたからである。関連作品を芋づる式に全部観てしまいそうで、とてもじゃないが時間的なキャパ超過になりそうだった為に泣く泣く封印したのだ。
沙村広明の新作コミック、『ベアゲルター』のあらすじをざっと読んだときに頭に浮かんだのは、『キル・ビル』の女殺し屋集団ブラックマンバであり、そして梶芽衣子映画だった。

狂気か? 復讐か? 3匹の獣(めす)が牙を剥き合う…おんなの修羅場! ドイツ、中国、そして日本へ! 中国の売春街で起きた謎の殺人…それはやがて、日本の某・広域暴力団内部での現金盗難事件と結びつき、とある辺境の孤島にて、予期せぬ火花となり炸裂する! ネオ時代劇『無限の住人』大団円の余韻に浸る間もなく、沙村広明が渾身で描く、背徳のエンタテインメント。著者の大好物であるチャイナドレスが、縦横無尽に冷酷非常に舞い戦う、情慾(エロス)と暴力(バイオレンス)の完璧な融合…これが“叛逆ずべ公アクション”だ!!
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…といった、女!エロ!ヤクザ!暴力!陰謀!殺戮!などなどが乱れ飛ぶノワール作品となっているわけである。沙村広明の代表作『無限の住人』は乗り遅れてしまって読んでおらず、せいぜい彼の単発作『ブラッドハーレーの馬車』を1冊読んだことがある程度なのだが、そこで感じた冷え冷えとした暴力と淫蕩なエロティシズム、そして穿たれた孔のような昏い狂気は共通している。そしてやはり、作者が公言しているように、この『ベアゲルター』は当初、「女囚サソリみたいな復讐系キャラやスケバンキャラも出して70年代東映テイストで」ということが目論まれて執筆されたのだという。
この『ベアゲルター』に登場する"叛逆ずべ公"は今のところ4人、チンピラの情婦、特殊能力を持つヤクザの拷問担当女、謎の過去を持つ凶暴なドイツ女(?)の殺し屋、そしてやはり謎の実験施設に務める(?)クンフー使いの中国娘、この4人がそれぞれの事情でヤクザの取引が行われるとある孤島に居合わせ、そこですさまじい暴力と殺戮の幕が開く、といった趣向なのである。一応男も出てくるのだがこの4人の前には全員形無し、まるで影が薄い。彼女らが孤島に集ったのは何故か?この孤島では何が行われているのか?ドイツ女や中国女の正体と目的は何か?そういった謎がちりばめられ、物語の全容が明らかになるのはまだまだ先だと思われるが、それにしてもこの1巻目にして吹き荒れる死とバイオレンスの凄まじさはちょっとしたスプラッタムービーさえ思い起こさせる。といったわけで昭和任侠・バイオレンス映画好き、『キル・ビル』好き、スプラッタ/トーチャーホラー好きの方はこの『ベアゲルター』、大いに気に入ること間違いなしの作品だろう。

ベアゲルター(1) (シリウスKC)

ベアゲルター(1) (シリウスKC)