映画『アウトロー』はトム君のアクションとしっかりしたストーリーが魅せる良作サスペンスだった!

アウトロー (監督:クリストファー・マッカリー 2012年アメリカ映画)


ピッツバーグ、白昼の狙撃犯、6発の弾丸、5つの死体。遺留品から即座に犯人は挙げられるが、それは真の狙撃犯とは別の男だった。尋問を受ける彼は無言でメモを見せる。「ジャック・リーチャーを呼べ!」…かくしてトム・クルーズ主演のクライム・サスペンス『アウトロー』が幕を開けるんだッ!!
いやあ、最初この映画、予告編を見て「ムキムキ暴力ヒーローが問答無用で悪モンを叩きのめす、ありがちなアクション映画なんじゃないのか?」と思ったんですよ。でも主演がトム・クルーズというところに妙に引っ掛かった。痩せても枯れても【スター】な彼がそういう一山幾らみたいな工業製品アクションに出るかなあ?と。これは何かあるに違いない、と思って劇場に足を運びましたが、これは観て大正解、もんの凄く面白いサスペンス・アクションに仕上がっておりましたよ。
まず何が良かったかって、そのじっくりしっかり組み立てられてゆく堅実極まりない物語運びですね。そして今風の細かいカット割りや矢継ぎ早のアクション編集、爆発や爆音やCGで水増しした見てくれの派手さ、そういったものを全部否定し正面からきっちり描く誠実な映像の撮り方、こういった部分が映画を独特のものとしているんですね。これはもともと脚本家として活躍しているクリストファー・マッカリーが監督したせいでしょうか、「きちんと物語を見せたい」という方向性の表れじゃないのかと思うんですよ。だから2時間10分という意外と長めの作品なのに、物語運びに無駄が無く、物語の持つサスペンスを確実に盛り上げてゆくんですよね。その物語も、「真の狙撃犯はなぜ人々を無差別に殺害したのか?」「狙撃犯はなぜ別の男を犯人に仕立て上げなければならなかったのか?」「狙撃犯を操る黒幕の正体は誰か?」「その黒幕が企む陰謀とは何なのか?」というミステリーが散りばめられ、そのミステリーの持つ緊張感と、真相が次第に明らかになってゆく興奮で、観ている者をグイグイ引っ張ってゆくんですよ。
つまりこの映画、単にヒーローが力こぶだけで事件を解決してゆくというものではなく、もう一人の登場人物である女弁護士と協力し合いながら事件の謎を解いてゆく、という推理ドラマの意趣もあるんですよ。決して単純なアクション作品という訳ではないんですね。ある意味、非常に大部で良質のサスペンス小説を息も切らさず徹夜で読み耽ったかのような、格別の物語体験ができるんですよ。そういったしっかりした土台の物語性を持つ作品であるのと同時に、【スター】であり、さらにヤンチャ大好きなトム君がこれでもかこれでもかと体を張ったアクションを見せてくれるものですから、映画それ自体に華があり、映画に静と動のメリハリ、サスペンスとアクションの緩急が豊かなんですよね。自分は以前「映画なんて整合感じゃなくて勢いだろ」なんていうことを言っちゃったことがあるんですが、この映画はしっかりした物語とそれと呼応したアクションが絶妙なバランスで存在する作品で、自分の発言の浅はかさを恥じる結果となってしまいました(スマン)。
そのケレンを取り去った正攻法な物語話法とアクションから、一種レトロな雰囲気を持つ作品であることも確かです。なんだかんだ言って主人公は剛腕の上頭も切れるマッチョですし、その造形それ自体も一昔前のものを感じさせるかもしれません。しかしだからこそ、テクノロジーを駆使した昨今の映画と比べて新鮮に感じる部分もあるんですよ。原作はハードボイルド・ヒーローの活躍するサスペンス・ヒット・シリーズで、この映画自体もシリーズ化させたい意向があるようですが、是非次の作品も観てみたいですね。それと、緊張感漂うこの映画、にやりとさせられるシーンも幾つかあり、追跡を受ける主人公と脇役の黒人とのやり取り、ロバート・デュバルのあるシーンでの登場など、まあこれはどういうものか観てもらうしかないんですが、くすぐりがいいんですよね。それとヒロインのロザムンド・パイクは、最初冷たい弁護士のように登場しながら段々可愛らしくなってくる、というのもいいですね。
ありがちなアクション映画のように見えて実はトム君の活躍としっかりしたストーリーが魅せる良作サスペンスであるこの映画、十分注目していい映画だと思いますよ。ブログ『すきなものだけでいいです』のアガサさんのレビューもとても楽しいですので併せてお読みください。

Jack Reacher

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アウトロー 上 (講談社文庫)

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アウトロー 下 (講談社文庫)

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