凸凹チームの織りなす王道ファンタジー物語〜『時の鳥を求めて』

■時の鳥を求めて / レジス・ロワゼル、セルジュ・ル・タンドル

時の鳥を求めて (EUROMANGA COLLECTION)

フランス産ヒロイック・ファンタジーの傑作! 呪われた神ラモールの復活を目前に控えアクバルの地に緊張が走る。魔術女王マラはいにしえの神々の魔術書をひもとき、再びラモールを封印する魔法を発見した。しかし、封印の魔法には長い時間が必要である。残された時間は少ない。マラは愛娘ペリースに、かつて恋人であった老雄ブラゴンと連れ立って、時間を止めることができるという時の鳥を探すよう命じる。まずはラモールを封印するための巻貝を手に入れ、ついで時の鳥の居場所を探さなければならない。老雄ブラゴンは自らの娘でもあるかもしれないペリースと反目しつつも、ラモールの忌まわしき力を手に入れようと立ちはだかる魔術王たちを退けながら、アクバルを救うべく、苦難の旅を続ける…

セルジュ・ル・タンドル原作、レジス・ロワゼル作画によるヒロイック・ファンタジーBD、『時の鳥を求めて』です。これまで酔狂で幾つかのBD作品を読んできたんですが、そういえばヒロイック・ファンタジーものを読むのって初めてなんですよね。お話はざっくり言うと、太古の昔封印された邪神が再び蘇ろうとしていることを知り、選ばれし者たちが邪神封印の鍵となるアイテムを集めるために冒険の旅に出る、というもの。こうして書くとまさに王道RPGそのものですよね。
しかしこの作品がユニークなのは、アイテム集めの旅に出る者たちというのが、すっかり老いぼれた元戦士、すぐかっとなって手の付けられなくなる魔法使いの娘、へっぴり腰で役立たずの仮面の男、という凸凹チームということなんですね。凸凹チームのやらかすことなので冒険の旅も一筋縄にはいかず、しかもそれぞれがてんでばらばらに勝手なことをしたがり、そのせいで危機を呼び込んじゃったりするんです。にもかかわらず最後はなぜだか丸く収まり、やれやれ、といった感じで次の章へと移るんです。物語は4章に分かれ、それぞれの章毎に違った舞台、違った敵、違った試練が用意され、さらに旅の途中で様々な仲間と出会い、又は分かれてゆきます。その中で元戦士はかつての弟子や師匠と戦う羽目となり、さらに魔法使いの娘が実は自分の娘なのかもしれない、と思い始めます。魔法使いの娘はといえば己の使命に熱中するあまり危険な位周りが見えません。そして仮面の男は最初へっぴり腰だったのが段々と自らの役割に気付き始めてゆくんです。こういった三者三様のドラマを孕みながら時にユーモラスに物語が進んでゆくという訳です。
しかし実のところ、最初本書を読み始めた時には、グラフィックの粗さ、未整理な構図、物語のありがちな凡庸さのせいで、あまり面白くないお話だなあと思えてしまい、途中で投げ出しそうになってしまったんですよね。巻末の作者インタビューなどを読むと、確かに序章である第1章の完成度が低いことを認めていて、それというのもまだ駆け出しのBDアーティストだったものですから、テーマを模索しながら描き出すことになってしまい、ある意味習作のような出来栄えになってしまった、ということなんですよね。しかしこれが2章に差し掛かると段々とネームと作画の語り口が整理されてきて、章のテーマがすっきりしてき始めます。
そして3章からは確かな緊張感を孕み出し、大団円を迎える最終章4章では思いもよらぬどんでん返しと、さらに大きな使命を達成することと引き換えのあまりに悲しいドラマが展開し、怒涛のように感情を揺さぶるクライマックスを迎えるのです!いやあひとつのお話の中でこれだけ印象の様変わりするBDも珍しかったですね。これはある意味作者チームのアーティストとしての成長を目の当たりにする物語としても面白いんですよね。そういった意味で、根気良く読み進めるなら最後に非常に良質な読後感を残す王道ファンタジーとして楽しむ事が出来る作品ですので、ファンタジー好きの方には挑戦する価値のある作品としてお勧めできますね。
[asin:4864102074:detail]