死体を売って金稼ごう!〜映画『バーク・アンド・ヘア』

■バーク・アンド・ヘア (監督:ジョン・ランディス 2010年イギリス映画)


19世紀イギリスで実際に起こったバークとヘア連続殺人事件(ウェストポート連続殺人事件)をブラックなユーモアを交えて描いたのがこの映画です。これ配役が面白くて、まず殺人鬼役のバークとヘアを『ホット・ファズ』『宇宙人ポール』のサイモン・ペグと『LOTR』でゴラムの中の人だったアンディ・サーキスが演じてて、解剖学者役が『ロッキー・ホラー・ショー』のティム・カリー、ヒロイン役のアイラ・フィッシャーはそんなに有名じゃないけど実は『ボラット』『ディクテーター』のサシャ・バロン・コーエンの嫁で、あと『SPACED』でサイモン・ペグとコンビだったジェシカ・ハインズがヘアの妻役で登場、さらにちょい役にはクリストファー・リーが出ているばかりか、調べて初めて分かったんだけど『アルゴ探検隊の大冒険』などで有名な特撮映画監督のレイ・ハリーハウゼンブロンソン映画『狼よさらば』『メカニック』の監督マイケル・ウィナーまで出ているらしいんですね。このマニアックなキャスティング、監督が『ブルース・ブラザース』、マイケル・ジャクソンPV『スリラー』のジョン・ランディスだったからこその人脈だったんでしょうね。
お話のほうはというと、最初に書いたように連続殺人鬼の話なんですが、主人公二人がこんなおっかない犯罪に手を染めたのには訳があるんですよね。主人公のバークとヘアは貧乏こじらせた食い詰め者の二人なんですが、ある日家業の下宿屋で死人が出てその死体を捨てるのに困っていたところ、町の医学学校の実験用に良い値で売れることを知り、そこに売り飛ばして小銭を得てしまうんですよ。死体って結構いい商売じゃん、と斜め上の方向に勘違いした二人は墓泥棒を始めて死体を売ろうとするけどこれが上手くいかない。じゃあ生きてる人間を死体にしちゃえ!ってことで殺人をはじめちゃうんです。実際には17人の被害者の遺体を売ったそうなんですが、このとんでもない犯罪はイギリス中を震撼させ、バークとヘアの二人の名前は子供の石蹴り歌や縄跳び歌として残っているぐらいなんだとか。なんだか『エルム街の悪夢』みたいだね!
さてそんな殺人鬼二人組をサイモン・ペグとアンディ・サーキスがコミカルに演じているんですが、コミカルな分血に飢えた冷酷な殺人鬼というよりは貧乏のあまり自分がどんな恐ろしいことをしているのかも気づかない哀れな連中に見えちゃうんですね。死体売った金に物言わせて女の気を惹こうとしたりとかもう情けなくて…。この無感覚さ、鈍感さが可笑しくもあり恐ろしくもある、という物語なんです。ただやっぱり題材が題材だけにお腹抱えて笑える、といったものではなくて、こういった史実を若干コメディの味付けをして見せてみました、といったものになっていて、観終わった後はどうしても気持ち悪さばかり残ってしまう作品になってしまいましたね。それとあと、当時のイギリスやヨーロッパの常なんでしょうが、町中が不潔でババッちいのも正しい歴史公証的にきちんと描いていてちょっとイヤ〜ンな気分になっちゃいました…。この映画じゃないけど、おまるに溜まった糞尿をそのまま通りに捨てる描写なんか映画で見かけると、だからお前らペストとかなんとか流行らせちゃうんだよッ!としみじみ思っちゃいますね。
それとこういった殺人鬼二人のドラマとは別に興味を惹いたのは、その彼らから死体を頻繁に買い上げなければならなかった当時の医学校の、解剖学の成果を張り合う教授たちの存在なんですね。19世紀になり医学は進歩しましたが、実験解剖用死体は主に死刑囚に限られていたらしく、これの絶対数が足りないばかりに、当時相当な墓荒らしが横行していたというんですね。この映画でも墓荒らしを取り締まる憲兵隊が墓地を監視したりとかが描かれるんですよ。要するにバークとヘアの犯罪というのは、需要があったればこその供給行為で、怨嗟による殺人とか金品強盗による殺人とかとは若干ニュアンスの違う殺人であった、という事実が面白いんですね。しかもこのバークとヘアの犯罪行為を生み出したことの反省として、実験解剖用死体供給の為、死体を死刑囚に限定しないという新たな法案までが作られたといいますから、意外とこの物語、歴史のあまり知られない深い部分をも描いていたりするんですよね。

バーク アンド ヘア [DVD]

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