『エル・トポ』のホドロフスキー原作、宇宙最強の傭兵一族の歴史を描くスペース・オペラ『メタ・バロンの一族』

■メタ・バロンの一族(上)(下) / アレハンドロ・ホドロフスキー、フアン・ヒメネス

メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books) メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)
この広大な宇宙で最強最悪であり冷徹非道と謳われた殺し屋、メタ・バロン。彼の一族は古来より苛虐な肉体破損と親殺しを条件とした通過儀礼により、その血塗られた名を脈々と受け継いできた――バンドデシネ、『メタ・バロンの一族』はこの呪われた一族の闘争と殺戮に明け暮れる暗黒の歴史を綴った長大な宇宙叙事詩である。
この『メタ・バロンの一族』はもともと、『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』で名を馳せるカルト映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーを原作とし、BD界の至宝メビウスがそのグラフィックを担当した伝説的傑作コミック、『アンカル』に登場する宇宙最強の殺し屋、メタ・バロンを主人公としたスピン・オフ作品として企画された。そしてこの『メタ・バロンの一族』では原作を『アンカル』と同じくアレハンドロ・ホドロフスキー、グラフィックは鬼才ファン・ヒメネスが担当し、メビウスとはまた違う濃厚かつ卓越した描写力でもって、おぞましくもまた想像力に溢れた未来宇宙世界を描ききっている。
「『メタ・バロンの一族』は腐敗した銀河帝国で展開する。時にこの世界には善良なるものは何もないと思えることがある」。ホドロフスキーがこう語るように、『メタ・バロンの一族』ではありとあらゆる"非道"が描かれる。メタ・バロンの一族は虐待、肉体破損、親殺し、また時として近親相姦によって成立し、彼らが殺戮を繰り広げる銀河世界では戦争、破壊、侵略、虐殺、征服、奴隷化、さらには星系に存在する知的生物を全て根絶やしにするジェノサイド、惑星の爆破、そして終局ではひとつの多次元宇宙全てを壊滅させるほどの恐るべき戦闘が描かれてゆく。ホドロフスキーはこの作品の中で大宇宙を舞台にしたオイディプス神話をもととするギリシャ悲劇を描こうとしたと語るが、キリスト教史観以前の倫理無き混沌と狂気と激情がこの物語に横溢していることは間違いない。
しかし、メタ・バロンの一族は決して血に飢えた蛮族、狂人の集団というわけでは無い。彼らは日本のサムライをイメージした彼らなりの徹底した規律と教条を持って生きている一族であり、それは恐ろしく歪みきったものではあるが、単に嗜虐を求める者ではなく、戦いの崇高さに忠勇を誓う者たちでもあるのだ。『メタ・バロンの一族』は彼らのそのグロテスクな規律と歪んだ教条の生み出す異様な世界観が迫力に満ちたスペース・アートでもって描写されてゆく。異形の生物と異形の都市、それらを破壊・壊滅する紅蓮たる爆炎と光輪、重々しい輝きを持つスペース・シップで埋め尽くされた暗黒の宇宙、それらスペース・シップが虫けらのように宇宙の塵と化す熾烈極まりない宇宙戦争、退廃と腐臭に満ちた絢爛たる銀河帝国、異常な心理と思考で持って行動する登場人物たち。これら全てが、どこまでもおぞましく、毒々しいまでに華麗で、そして細微に渡って美しく描かれる秀逸のグラフィック。BD『メタ・バロンの一族』は当代随一と表現してもいい超弩級スペースオペラ・コミックであろう。



メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)

メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)

アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX

アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX