最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その3) 『戦火の馬』『海の上のピアニスト』

■戦火の馬 (監督:スティーヴン・スピルバーグ 2011年アメリカ映画)


一頭の馬を通して第一次世界大戦の趨勢を追って行く、という映画ですね。なにしろ主人公は軍馬として戦場で使役されることとなった馬、この馬の周りに様々な人が現れては消えてゆくんですが、それはイギリスやフランスの農民であったりとかイギリスやドイツの軍人であったりとか、そのときそのときで馬の持ち主が変わり、そして持ち主が変わるたび第一次世界大戦で敵対する両陣営がどのような戦いを繰り広げていたかが分かる仕組みになっています。そして面白いのは映画が進むにつれ戦争テクノロジーが徐々に進化していってる様を描いているんですね。最初は騎馬隊で突撃、とかやってたのが次がガトリング砲、次が大砲、最後には戦車、さらに毒ガス戦、といった形で、第一次世界大戦における戦闘方法と兵器の変遷が上手に盛り込まれているんですよ。その反面、馬とからむ人間は次々に変わってゆくので、人間そのものの描かれ方というか掘り下げ方は大甘な上にざっくりしているんですね。この辺、実にスピルバーグ映画らしくて、ヒューマン・ドラマ撮ろうとして惨たらしい戦闘シーンに思いっきり力が入っちゃった『プライベート・ライアン』とか、やっぱりヒューマン・ドラマやろうとしてユダヤ人殺戮場面にメッチャ力が入ってしまった『シンドラーのリスト』を撮ったスピルバーグらしい本末転倒ぶりが微笑ましいですね。スピルバーグ自体第一次世界大戦モノは初めてだったそうですが、クライマックスの塹壕戦とかその描写なんかが「戦争映画好き」していて惚れ惚れしちゃうぐらい禍々しいんですよねえ。そういった意味でこの『戦火の馬』、オレは「馬と人々との魂のふれあい」の映画というよりも「ヨーロッパ近代戦争史」として楽しんでしまいました。

戦火の馬 ブルーレイ(2枚組) [Blu-ray]

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海の上のピアニスト (監督 ジュゼッペ・トルナトーレ 1999年イタリア・アメリカ映画)


船の上で生まれ船の上で暮らし天才的なピアニストとして人々に愛されながらも生涯ただ一度も船を下りることのなかった男を描いたドラマです。設定それ自体も普通に考えたら有り得ないような風変わりなものですが、お話のほうも人間ドラマというよりはひとつのファンタジーとして観るべき映画でしょう。特に嵐の中、木の葉のように揺れる船上で、ツルツルクルクルと床を滑るピアノを超絶的な技巧で演奏するシーンの幻想味、天才ジャズマンとのピアノ一騎打ちのエキサイティングな楽しさ、さらに船窓から見える少女に恋して即興でピアノ曲を弾き始める美しいシーンなどは、どれも映画という表現ジャンルの醍醐味に満ちた宝石のように輝く素晴らしいシーンでした。しかし、主人公がなぜこうまでして意固地に船を下りないのか、が観ていてどうしても理解できないんですよねえ。船の上にい続けることが自らの芸術性を守る必須の条件なんだ、ということのようなんですが、外の世界を知らないまま、芸術に身を捧げることだけが自らの人生なんだ、と言い切ってしまうことは実は不幸なことなのではないのか、と自分などは思ってしまいました。ここからはネタバレになっちゃうんですが、結局、主人公は廃船となった船と共に自らの生涯をも閉じてしまうことを選ぶのですが、これでは死を選ぶことが最良の方法と言っているようなもので、実はこの映画、かなりペシミスティックなものであると言わざるを得ないんですよね。しかし考えてみると人っ子一人いない廃船で生活し続けるのはどうにも無理がある話で、ラストに登場した主人公というのは、実は亡霊であったのではないのか、とふと思ってしまいました。でなければ、この物語の狂言回しであるトランペッターの、彼自身の一時代の終焉を象徴させたものであるとか、いろんなことを想像してしまったラストでしたね。

海の上のピアニスト [DVD]

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