最近読んだコミック / 西遊妖猿伝 西城篇 (4)、水木しげるの古代出雲、どげせんR(1)、ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―(2)

西遊妖猿伝 西城篇 (4) / 諸星大二郎

西遊妖猿伝 西域篇(4) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇(4) (モーニング KC)

やっと…やっと出たんですね諸星大二郎先生の『西遊妖猿伝 西城篇』第4巻!お馴染み『西遊記』を諸星流の博識かつオルタナティブな世界観で換骨奪胎した幻想怪奇アクション・コミックなんですが、1983年から描き始められたこの『西遊妖猿伝』、第1部『大唐篇』から中断もありつつ第2部『西城篇』に引き継がれて、そしてこの4巻でもう30年近く描かれていることになるんですよ!?3巻が去年だからまあ1年に1冊というペースなんだろうけど、いやあ、作者が在命中に終わるのか、という心配と、最近50になったオレにとっても、オレの在命中に終わるのか、という危惧が加わってきてますよねえ。だってなんといったってこの第2部の後にはさらに『第3部 天竺篇』の構想があるっていう話じゃありませんか。第1部完結に14年でしょ、この第2部がやはり14年かかるとして完結がたぶん10年後(!)の2022年、それから第3部を14年掛けて終わらしたとしたら全巻完結は24年後の2036年という計算になっちゃいますよ!オレももう74だよ!?作者は90近くだよ!?でもまあ水木しげる先生という例もあるから、妖怪系の漫画家は長生きしそうだし、案外ちゃんと描ききるかもなあ…だったら余計オレの寿命のほうが心配になってきたなあ…。あ、物語のほうはカポエラによく似た体術を使う"さそり女"が登場し孫悟空一行を引っ掻き回す、アクション主体の巻になっていて、異世界感はあんまりありません。

水木しげるの古代出雲 / 水木しげる

水木しげるの古代出雲 (怪BOOKS)

水木しげるの古代出雲 (怪BOOKS)

水木しげる大本尊の最新作は古代出雲を舞台にした日本の神話を描いたものだ。水木先生はこれまでも『水木しげる遠野物語』などを執筆されているが、日本の伝説・古代史と水木先生の神秘かつ幽玄な描線は結構親和性が高く、この「古代出雲」もなんとなく知っているような日本神話の物語でありながら、水木しげるフィルターを通すことで新鮮な物語として読むことが出来る。と同時に、"なんとなく知っている"けれどもちゃんと知っているわけではない日本神話をきちんと読めるのでお得感も倍増である。どちらにしろ、もはや水木先生のトレードマークともいえる「ほわ〜んと漂う煙状のもの」とか「手書きオノマトペの熟成した深い味わい」とか「"ふはっ"という鼻息が既に固体にしか見えない形状」とか「大きく開いた口の中で"つ"の字に丸まっているベロ」とか、そういう"限りなく水木的な表現法"を愛でることこそが真の水木信者の役割であり、それは今作でも十二分に堪能できるというわけなのである。

■どげせんR(1) / RIN

どげせんR 1 (ヤングキングコミックス)

どげせんR 1 (ヤングキングコミックス)

いろいろな事情により連載の打ち切られた『どげせん』が『どげせんR(リターンズ)』として帰ってきた。もとの作者二人の分裂、ということでこちらはRIN氏のものとなるが、『どげせん』オリジナルと感触が違うのはオリジナルの超自然的かつ意識的に無理矢理なこじつけによる"土下座"のシュールな笑いではなく、心の底から願って頭を垂れる、土下座本来の意味に基づいた土下座を描こうとしているということだ。物語は主人公瀬戸発(せとはじめ)とその同僚・教え子たちによる学園ドラマ、というコンパクトな空間に限定され、馬鹿馬鹿しさよりもむしろハートウォーミングなものを主軸とするが、インパクト頼みの土下座のバリエーション展開にそろそろ限界が見えてきていたのでこれはこれで悪くない。

■ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―(2) / すぎむらしんいち

ゾンビたちがはびこる日本を舞台にしながらすぎむらしんいちの『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―』はユニークな設定を持つ。それはゾンビと化したはずの女たちが腐れた肉と化すことなく艶かしく美しい姿を持ち知性も失うことなく、男の肉をむさぼり男たちを殲滅し、かたや男たちだけが一般的な死肉としてのゾンビとなって通りをさ迷い歩く、という世界を描いているからだ。これはどんどん性的に大胆になっていく女たちと保守的なままの男たち、というメタファーなのだろう。しかもこの漫画の主人公はオタクヒキコモリ童貞ブ男のボンクラ野郎で、性格が卑屈な上にセックスの事しか頭に無くさらに作中では常にフルチン、というどうしようもないヤツなのである。そんな主人公とボンクラ仲間たちがショッピング・モールならぬ中野ブロードウェイに立てこもりゾンビと対峙する、というからなおさらおかしい、そんな第2巻である。