最近読んだ本あれこれ

以前Twitterで「お勧め本」を各々呟いてみる、というのがあり、それを読んでめぼしい何冊かの本を購入してみた。全部古本購入で、そういった値段的な敷居の低さもあったから気軽に手にすることができた。

■死霊たちの宴(上)(下) / J・スキップ&C・ベクスター編

死霊たちの宴〈上〉 (創元推理文庫)

死霊たちの宴〈上〉 (創元推理文庫)

死霊たちの宴〈下〉 (創元推理文庫)

死霊たちの宴〈下〉 (創元推理文庫)

1968年、ひとつの恐怖が世界を襲った。ロメロ監督はゾンビ映画の傑作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』公開の年―このカルト・ホラーに魅せられた数多の作家たちが創りあげたアンソロジー、それが本書である。生者が滅び、死者が蘇った世界の終わりに、それでもなお新たな生命に執着する女を描くキングの名品「ホーム・デリヴァリー」など、上巻には全九編を収録した。
生ける死者。生者の肉を喰らう亡者の群れ。それがゾンビ―「そこで別の死体と鉢合わせした。…相手をふと見やった。そして出会ったのが、彼女だった」死してなお、究極の愛を求める男と女。その姿が鮮烈なマキャモンの逸品「わたしを食べて」をはじめ、下巻には全七編を収録した。生と死のあわいを極彩色に映しだし、恐怖と哄笑、聖と汚辱のはざまをたゆたう待望の傑作集。

上下合せて全16作のゾンビ・ストーリーが堪能できるゾンビ・アンソロジー。作者にはS・キングやロバート・R・マキャモンなど有名作家の名もあるが、略歴を読むと普通に無名だったりアマチュア作家がいたりして、クオリティ的にも玉石混交と言えるかもしれない。しかし「ゾンビ」という一つのテーマでどれだけバリエーションのある物語を創出できるのか、といった点から見るとそれぞれの作品があれこれ工夫を凝らしており、これはこれでなかなか面白い。このバリエーションのあり方は、例えば自分でゾンビ・ストーリーを書いてみたい、という方には参考になるのではないか。それと、読んでいて無性に『WORLD WAR Z』を読み返したくなった。大部の著作なので個々の作品をいちいち紹介できないが、最も特筆すべき作品はジョー・R・ランズデールの「キャデラック砂漠の奥地にて、死者たちと戯るの記」だろう。このゾンビ作品の強烈な幻想性と異様な設定は、もはやある種の神話にまで昇華されている。もともとランズデール作品は好きなのだが、彼の作品の中でもベストの部類だろう。

■燃える季節 / ウェイン・D・ダンディー

燃える季節 (文春文庫)

燃える季節 (文春文庫)

賞金稼ぎを副業とする私立探偵のジョー・ハニバル、イリノイ州ロックフォードという田舎町を本拠とするだけあって、泥臭さむきだしのタフガイだ。保釈中の逃亡者を追いつめたはいいが、不審火で焼死したオフクロのかたきを見つけてくれと逆に頼まれ、48時間の男の休戦とあいなった。中西部の秋をバックの真正ハードボイルド。

非常にオーソドクスな骨子を持った、実にハードボイルドらしいハードボイルド作品。主人公は頭を使うより先に手が出るヤンチャなタフガイだし、さらに田舎の有力者が出てきてちょっと怪しい、なんていうのはハメットぽいし、作者自身がハードボイルドが好きで溜まんないんだろうなあ、と思わせる。主人公、割と単細胞なくせになんだかしらないけどちゃっかり美人とデキちゃうところとか全然外さないなあ。描かれる事件がちょっと小ぶりでその展開もそれほど意外性がないのだけれども、のどかにハードボイルドを楽しめました。

■有り金をぶちこめ / ピーター・ドイル

有り金をぶちこめ (文春文庫)

有り金をぶちこめ (文春文庫)

朝っぱらから死体に出くわすとはツイてない。おれが欲しいのはデカく稼げるうまい話なのに…。50年代のシドニー。暗黒街の顔役に睨まれ、謎の亡命者と渡り合い、悪徳刑事に恐喝されつつも、悪党ビリーはめげずに一発勝負を狙う。ロックンロールにリズムに乗って、悪党どもがスウィングする。軽快至極、抱腹絶倒の痛快犯罪小説。

戦前のオーストラリアを舞台にしているというのが珍しい小悪党小説。物語は3部の中篇に分かれており、いつも素寒貧のノミ屋である主人公が厄介事に巻き込まれるというもの。当時のオーストラリア都市の風俗が描かれているのがちょっと珍しかったかな。主人公らが音楽プロモーターになり、実名のロック・スターが登場してドタバタを演じる部分もユニーク。描かれる時代が時代だけに、ドンパチはあるけど全体的にオーストラリアっぽいおおらかな作風だった。

■シャークに気をつけろ! / コンスタンティン・フィップス

シャークに気をつけろ! (ハヤカワ文庫)

シャークに気をつけろ! (ハヤカワ文庫)

盗聴器開発の専門家ハーマン・ニュートンはドジで風采のあがらぬ男。画期的盗聴器を発明したが、人間不信からそのことを秘密にしている。そんなある日、英国情報部のシャーク少佐が彼の盗聴の腕を見込んで極秘任務を依頼してきた。バラセロナにあるセックス研究所に潜入した、そこで開発中と思われる媚薬の秘密を探り出せというのだ。昔からスパイに憧れていたハーマンは勇躍、研究所に乗り込むが、そこには怪しげな男女が出入りし、武器密輸の陰謀が囁かれていた!しろうとスパイが繰り広げる珍冒険をブラックな笑いで描く異色のスパイ小説。

今回はこれが一番面白かった。主人公は秀才ではあるが思い込みが激しくどことなく抜けていて、そんな彼が政府諜報部の手伝いをすることになったのだけれども勝手に暴走、さらに彼に指令を出す少佐と呼ばれる男の娘に熱を上げてしまい、物語は実はこの娘をモノにする為に悪戦苦闘する主人公の頓珍漢な行動がメインなのだ。ミスリードを促す描写があると、それに最初に引っ掛かるのが主人公、というのも情けなくて面白い。しかしそういったスラップスティック・ストーリーなのにも関わらず、小説の描写力は並外れたものであり、一見物語とは関係の無いエピソードの積み重ねが物語全体をリアリティのあるものへと肉付けしている。要するに非常に読ませるエンターティメント作品なのだ。作者コンスタンティン・フィップスは検索してもこの作品しかあがってこず、訳者あとがきでも情報が殆ど無く、ひょっとしたら著名作家が覆面の別名義で書いたものなのではないかとさえ勘繰っている。