不良少年VSエイリアン!〜映画『アタック・ザ・ブロック』

アタック・ザ・ブロック (監督:ジョー・コーニッシュ 2011年イギリス映画)


サウスロンドンの団地(ブロック)に住む不良少年たちが地球にやってきたエイリアン集団と戦っちゃう、というお話です。不良少年たちはカツアゲとかやっちゃってる悪ガキどもです。最初はクソ憎らしい連中として登場します。カツアゲはいくない!この不良少年たちと絡むのが看護師の女性サム。最初にカツアゲくらうのが彼女なんですが、その後ある種の腐れ縁で少年たちと行動を共にしてしまいます。
少年たちがサムをカツアゲした後に空から燃えるように輝く物体が落ちてくる。こりゃなんじゃい、と見に行くとそこには醜いエイリアンの姿が!しかしなんと悪ガキどもはこのエイリアンをボコにしてぶっ殺しちゃうんですね!わざわざ遠い宇宙からやってきてすぐさまバカガキにシメられるエイリアンがあまりにも不憫!しかしエイリアンの襲来はそれに留まらなかった!あとからあとからエイリアンが襲来して不良少年どもを追い回します!逃げ惑う少年たちは彼らの住む団地に逃げ込み、そしてこの団地を舞台にして不良少年VSエイリアンの血で血を洗う抗争が始まっちゃうんですね。はるばる地球にやってきて暴れまわるのは貧乏人ばかり住む団地だけって、随分小規模過ぎる侵略じゃないかエイリアンの諸君!?と思うんですがこれにはちゃんと訳があり、それは観てのお楽しみということで。このきちんとした理由付けがこの映画をその辺の宇宙人侵略SFにしていないですね。
少年たちは自分らの住む団地というローカルな場所でのみ戦いを繰り広げますが、これは団地という名の自分らの住むコミニュティを死守したい、ということであり、つまりはサウスロンドンのロウアークラスのコミニュティに住む者たちの地元愛のあり方を描いているともいえるんじゃないかと思います。警察も余所者もあてにならねえ、俺たちのコミュニティを守るのは俺たちだけだ!ということであり、同時に他者なんか信用できない、信用できるのは仲間だけだ、というロウアークラスの中での強固な結束感、これがこの映画のテーマとも言えるんじゃないでしょうか。
面白いのはイギリス映画らしく、銃が殆ど登場しない、ということですね。本当のチンピラは持ってたりするんですが、不良少年たちはナイフやバットや花火(!)でエイリアンと戦うんですよ。この辺、銃社会のアメリカとまるで違う戦いのあり方は、同じくゾンビと戦うのに殆ど銃の登場しなかったイギリス映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』を思い出しました。それと同時に、エイリアンの襲来を描きながらたった一つのコンドミニアムだけで住人たちの存亡が描かれる『スカイライン』との対比も面白いですね。『スカイライン』では社会的成功者というか成り上がりやメディアの上澄みみたいな連中が登場人物で、この辺も実にアメリカらしかったですが、貧乏人ばかり登場するこの映画とは大きな隔たりを感じますよね。
つまり"エイリアンの襲来"を描きながらアメリカとイギリスではこういうふうに物語展開が変わってくる、その国民性の違いを思い描くのが面白い映画でもありましたね。そもそもこの映画では警察があてにならないばかりか軍隊すら登場しないんですよ。そしてアメリカだと『スーパー8』のような少年が主人公の物語はその少年性がクローズアップされたジュブナイルに近い物語になるところを、この映画だと決して青春モノでもジュブナイルでもない作品に仕上がっているんですよね。少年たちが懐古趣味の対象ではなく、リアルに生きる大人の一員として描かれている、その辺の違いも面白かったですね。そして世界の存亡が掛かってるかもしれない事態に元気ばかりはたっぷりある健康優良不良少年たちばかりが得体の知れない敵と戦う、というシチュエーションは大友克洋の『AKIRA』すら思い出しました。
SF作品で描かれる"侵略者"や"モンスター"は、現実の何がしかの社会不安の象徴的な存在として描かれますが、アメリカが現在テロリズムへの漠然とした不安がその象徴として現れていることとは逆に、この作品ではもっと身近な社会格差がその象徴として描かれているのでしょう。そしてこの作品の登場人物である少年たちはそれと果敢に戦ってゆきます。このタフさ、そして若々しさは、そのままこの映画の魅力と繋がっていると思いますね。

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