ざわざわと蠢くブリューゲル絵画〜映画『ブリューゲルの動く絵』

ブリューゲルの動く絵 (監督:レフ・マイェフスキ 2011年 ポーランドスウェーデン映画)

  • ブリューゲルは『バベルの塔』や『雪中の狩人』などで有名な16世紀の画家です。この映画は彼の作品である『十字架を担うキリスト』をモチーフに製作された作品なんですね。
  • といってもこの作品、美術ドキュメンタリーといったようなアカデミックな作品でありません。『十字架を担うキリスト』に登場する群衆像をそのまま生の人間に演じさせ、それにCGIを合成し、あたかも映画のスクリーンを絵画のキャンバスに見立てたような、奇妙に超現実的なイメージを展開する映画として仕上がっているんですね。だから『ブリューゲルの動く絵』という邦題なんですね。
  • この作品、ブリューゲルが登場し、当時スペイン・ハプスブルク家支配にあった彼の国の様子を憂いながら、それを"キリストの受難"とダブらせ、絵画を完成させるまでを描くのですが、実際、物語らしい物語は無いんですよ。
  • 描かれるのは、当時ブリューゲルの住んでいた南ネーデルランドに生きる人々の生活であり、その彼らの日々の1ページを切り取ったような点景が、淡々と紡がれて行くんですね。
  • 『十字架を担うキリスト』は16世紀フランドル地方の衣服そのままに、"キリストの受難"を描いた作品なんですが、この映画ではその衣装や、そして当時の人々の生活ぶりが非常にリアルに再現されており、そしてその描き方自体が、絵画のように美しいんですね。この映画は、その美しい描写を堪能するためにあるんですね。
  • 美しいだけで無く、支配者スペイン人の暴虐ぶりもそこここに挿入され、陰惨な死罪の様子は、そのまま"キリストの受難"へと繋げられてゆくんです。
  • 図像学=イコノグラフィー的に言うならば、中世のキリスト教絵画は、"描かれたもの"は"(宗教的な)何かの表徴"なのですが、この作品でも、絵画の背景にあり中心的な存在でもある崖の上の風車小屋が、神の顕現する場所である、という図像学的な言及があって、そういった部分も面白かったですね。原題『THE MILL AND THE CROSS』のTHE MILLは製粉機ですが、それが存在する風車小屋が"神のおわす所"と考えると、この原題は『神のおわす所と十字架』、即ち”天と地”というふうにとれるんですね。
  • もうひとつ面白かったのは配役ですね。主人公ブリューゲルルトガー・ハウアーが演じてるんですよ。この間までショットガン持った浮浪者だったのに、今作では絵筆を持った芸術家ですもんね。さらに美術蒐集家のニクラース・ヨンゲリンクをマイケル・ヨーク、マリア役をシャーロット・ランプリングが演じており、渋いヨーロッパ映画にも関わらず意外とお馴染みの俳優が配役されていて、とっつきやすかった、というのもありましたね。

■十字架を担うキリスト

ブリューゲルの動く絵 予告編


Pieter Bruegel

Pieter Bruegel