【海外アニメを観よう・その8】魔法使いなんていない〜『イリュージョニスト』

イリュージョニスト (監督:シルヴァン・ショメ 2010年イギリス・フランス映画)


主人公は中年のフランス人手品師。彼は空席だらけの三流劇場や酔っ払いしかいない場末の酒場で流行遅れの手品を披露し、今日もなんとか糊口をしのいでいた。彼はある日、スコットランドのやっと電気の通ったような辺鄙な離島を訪れ、そこにあるひなびたバーでいつものように手品を披露する。そこに居合わせた貧しい少女は、彼の手品に魅せられ、本当の魔法使いだと思い込み、島を発つ手品師の後に付いてきてしまう。困惑した手品師だが、彼女の姿に生き別れた娘の面影を見た彼は、少女との共同生活を始める。そして少女のねだる靴や洋服をプレゼントしてみるものの、舞台の上がりだけでは生活できず、手品師はいろいろなアルバイトをしてはみるものの上手くいかず…。
ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメが描く大人の寓話とでも言っていい物語だ。描かれるのは1950年代のフランスとイギリス、その古き時代の街並みや人々の暮らしを精緻な描線とグラフィック、そしてセピア掛かった美しい諧調の色彩で余すところ無く再現されている。なにしろこのアニメ作品はその画像の美しさが際立っている。アニメーションの動きも優雅でかつ驚きに満ち、少女の純朴さや手品師の背負う哀感は実に表情豊かに描かれ、要所で使用されるCGのダイナミックな見せ方も効果的だ。ヨーロピアン・アニメの一つの完成形といってもいいアート作品ということができるだろう。
ただ、その物語にはどうも疑問が残る。ドラマツルギーの在り方としてあまりにも純朴すぎ古臭いものとして感じるのだ。手品師を見て魔法使いと思い込んでしまう少女というのも随分幼稚に思えるしそんな少女を素直に受け入れてしまう手品師というのもかなりお人よし過ぎないか。そうして最後に語られるのは「この世には魔法使いなんかいない」という現実なのだけれども、しかし普通に考えるならそれは当たり前の話であるし、むしろ「魔法使いなんかいない」という部分から現代的なファンタジーは語られるべきなのだ。
そういった意味でテーマとしてはひどく古臭いものを感じるし、また逆に、これは古き善きヨーロッパ人情ドラマの形を批評無くそのまま現代で物語ってしまったという事なのかもしれない。ビジュアルが秀逸なアニメなだけに、そういった点が非常に残念に感じた。この物語の脚本は、『ぼくの伯父さん』などで知られるフランスの映画監督、ジャック・タチが娘へ遺した幻の脚本といわれており、それをシルヴァン・ショメが脚色・監督したということなのらしい。そういった部分でジャック・タチとその脚本に敬意を表し、あくまでオリジナルの古臭さをそのまま残したのだということなのかもしれない。

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