【海外アニメを観よう・その2】フレンチ・アニメ 『ベルヴィル・ランデブー』,ソ連アニメ『イワンと仔馬 & 灰色首の野がも』

ベルヴィル・ランデブー (監督:シルヴァン・ショメ 2002年フランス/ベルギー/カナダ映画)

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

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巨大な頭の老女、脚の筋肉だけが異常に発達した青年、ビア樽のように太った犬。特徴が極端に描かれ、一見、気味の悪いキャラクターを、これほどまで魅力的に見せるアニメも珍しい。戦後間もないフランス。マダム・スーザは孫のシャンピオンに自転車の才能があると知り、彼をツール・ド・フランスに出場させる。しかしレース中にシャンピオンは誘拐され、スーザは海を渡り、大都会「ベルヴィル」で孫を捜すのだった。 全編、ほとんどセリフなし。人物の行動と表情だけでストーリーを伝えるのは、フランス出身のシルヴァン・ショメ監督。あえて手描き風にこだわったノスタルジックな絵や、ちょっぴりグロテスクな描写の数々は、どこか、おとぎ話の世界に迷い込ませるような魔力を持っている。線路脇に建つ傾いた家や、ニューヨークのようなベルヴィルなど、あらゆる背景にも目を奪われる。さらに注目すべきは音楽で、物語のカギとなる三姉妹の老婆が歌うマイナー調のスウィングジャズや、大海原で流れるクラシックなどが強いインパクト。そしてフレッド・アステアジャック・タチへのオマージュ…と、見どころを書いたらキリがない!

エピローグに当たる劇場シーンのアニメーションがまず楽しい。三つ子姉妹の歌と踊りのレビューが催されているだけれども、いろんなキャラが舞台に登場してはクニャクニャビョロビョロと変幻自在に伸び縮みしながら動きまわり踊りまわり、その動きの楽しさにまず引き込まれる。ここだけで短篇アニメーションとして完成されてさえいるのだ。そして本編、映画はツール・ド・フランスを目指す青年とおっかさんの物語として始まるのだが一転、青年は何者かに拉致されアメリカへと連れ去られてしまう!息子を追いアメリカに渡ったおっかさんが知り合ったのは3人の老婆、これが映画冒頭に登場した三つ子姉妹の年取った姿なのだが、蛙食ったりしゃぶってたりしてなんだかよく分かんない所が怪しくて可笑しい!そしておっかさんはこの老婆3人と息子を取り戻そうと大活躍するんだ!アニメの主人公が腰の曲がった皺だらけの婆さんとすっかり所帯臭いおばさんってところがいい!映画に登場するキャラクターは誰も彼も極端な姿にデフォルメされ珍奇で目を奪う。そして背景となるフランスやアメリカの街並みの描写がまた美しい。物語はちょっとブラックでシニカル、台詞は殆ど無いけれどもこのビジュアルと動き、そしてキャラの強烈さで魅せられる映画だ。

■イワンと仔馬 (監督:イワン・イワノフ・ワノ 1947年ソ連映画)

イワンと仔馬&灰色首の野がも [DVD]

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ある夜、麦畑の番をしていたイワンは、星空から突然舞い降りてきた不思議な白馬に、二頭の黒馬とかわいいせむしの仔馬をもらいます。その黒馬が王様に見初められ、イワンは馬の世話係として宮殿で働くことになりますが、これをおもしろく思わない臣下は、王様を利用しイワンを陥れようとします。しかし、そのイワンに知恵と助言を与え、すべてを解決してくれるのはあの仔馬だったのです―。

3兄弟の一番下の子イワンは馬鹿で…と始まるこの物語、ああ、「イワンの馬鹿」の物語かと思ったらそうでもないんですね。「イワンの馬鹿」はもともとロシア民謡トルストイが中篇として発表したもので、こちらはロシアの詩人ピョートル・パーヴロウィチ・エルショーフの作品『せむしの仔馬』をもとにしています(昔はこのタイトルだったようですが、"せむし"という言葉は差別語で使えない為現在のタイトルになったんでしょうね。同じような理由で『ノートルダムのせむし男』は『ノートルダム・ド・パリ』とか『ノートルダムの鐘』なんていうタイトルになっていますね)。物語はロシアの昔話『金色の馬』や『火の鳥』、『イワンの馬鹿』などをひとつにまとめたもので、これらファンタジックな生物たちが動き回るさまがとても躍動感に満ちアニメの醍醐味を見せるんですね。物語は王道ともいえる御伽噺ですが、馴染みの無かった分とても楽しんで観ることが出来ました。しかし後半のお姫様が繰り出す無理難題は「かぐや姫」を思い出しましたが、こういった物語って歴史のどこかで繋がっているんでしょうか。ロシアの素朴ながら力強い童話をアニメで蘇らせたこの作品は、欧米のものとはまた違った独特の土俗と習俗をかいま見せ、そういったエキゾチズムが驚きを生むものとなっていました。

■灰色首の野がも(監督:レオニード・アマリリク、V・ポルコヴニコフ 1948年ソ連映画)

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首が灰色の子がも・グレイは森でキツネに襲われそうなウサギを見つけ、助けようとしますが、逆に襲われ右の羽を負傷してしまいます。母親がもは、無残に森に落ちていた羽根を発見し、我が子は死んだものと思い込み、春までの遠い旅に出発してしまいます。たった一羽残されたグレイ。冬は容赦なく訪れ、腹をすかせたキツネが再び襲い掛かりますが、今度はウサギが森の仲間を連れてグレイを救出したのです。森の平和は保たれ、やがて傷も癒えたグレイは母親との再会を果たすため、再び大空へと飛び立ちます。

シベリア大自然を舞台にした動物たちの一冬のドラマです。可愛らしい動物たちが厳しい自然の中で生き抜く様が描かれますが、どちらかというと子供向けな感じがしてちょっと退屈してしまいました…。