日本の古典怪談映画を観た〜その1『怪談』

■怪談 (監督:小林正樹 1965年日本映画)


子供の頃はなにしろ怪談話が大好きで、怪談小説は勿論TVの心霊特集やオカルト漫画をドキドキしながら観たり読んだりしていたものである。小泉八雲の『怪談』はその中でも一番のお気に入りで、子供向けに翻訳された八雲の怪談話を神妙な顔をして読んでいたものだ。誰もが知るように小泉八雲はパトリック・ラフカディオ・ハーンの本名を持つ帰化人であるが、外国の人がどうしてこんなに日本的なお話を書けるのか不思議に感じていたのを覚えている。
映画『怪談』はその八雲の小説から「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」の四編を映画化したオムニバス作品である。公開は1965年、もう半世紀近く前に作られた映画であり、監督の小林正樹にとっても初のカラー作品だったということだが、だからこそ入念な色彩設計がなされたという。美術にも力が入っており、映画の殆どがセットで撮影されているが、その広大さには目を奪われるだろう。さらにそこに出現する空は、リアルな青空の絵ではなく巨大な瞳や血のような赤が塗られたホリゾントであり、映画全体をおそろしく人工的で演劇的な幻想世界として演出している。
音楽がまた素晴らしい。武満徹が担当したそれは、"テープ変調を伴う邦楽器を駆使した”ものらしく、不気味であると同時にモダンであり、今聴くと「まさかシンセサイザー…のはずはないよな」と一瞬耳を疑ったほどだ。出演者も豪華だ。三國連太郎新珠三千代岸恵子仲代達矢菅井きん、浜村純、丹波哲郎志村喬田中邦衛佐藤慶、その他映画には馴染みのない舞台俳優も多く起用したという。おどろおどろしい怪奇話というよりは一級の芸術品を目指して作られた作品であり、カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされている。
物語の内容は既にお馴染みのものであろうから省くが、「黒髪」において既婚女性が当時の風習である”お歯黒”姿できちんと描かれていたのにはびっくりした。そしてやはり、なんと壇ノ浦の合戦の様子から描かれる「耳無芳一の話」はその格調高さ、描かれる妖異の幻想味に於いて圧巻であろう。特に平家落ち武者たちが横並びに出現するシーンでは、「日本にはこんな巨大なスタジオがあったのか」と思うほど圧倒された。全体的に”タルコフスキー的”と言っていいほど間の多いゆったりとした時間の流れる映画で、せっかちな方には向かないとは思うが、古き日本の時間感覚を味わうつもりで観られるなら芳醇な映像体験が出来る筈だ。

■怪談 予告編


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怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)

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