おいらはドラマー!ドラム持ってないドラマー!〜映画『エア☆ドラム!世界イチせつないロックンローラー』

■エア☆ドラム! 世界イチせつないロックンローラー<未> (監督: アリ・ゴールド 2008年アメリカ映画)


オラ、ドラムが好きだ!でも金無いからドラム買えねえ!だけどオラにはエア・ドラムがある!いつでもどこでも、心に音楽さえあれば、ドラムを叩くことができるんだ!というエア・ドラム大好き青年のお話です。

舞台はニューメキシコの片田舎、主人公はここで父と共に工場労働者として働く青年パワー君。しかしパワー君はエア・ドラムが好き過ぎて仕事中もノリノリでエア・ドラムしまくりの変わり者です。はっきり言ってイタイです。パワー君は仕事中もエア・ドラムし過ぎでクビになっちゃいます。そんな失意のパワー君がある日、謎のオヤジに出会い「青年よ、ニューアーク市に行ってエア・ドラム修行するのじゃ」とか言われて住所を渡されます。そして示された場所に辿りつくと、そこでは数人の男たちがエア・ドラム大会に出場する為血の滲む練習をしているではないですか!パワー君は早速仲間になり、一緒に大会目指して頑張るんです。そんなパワー君が身を寄せた中華料理屋の下宿の隣アパートには耳の聞こえない少女がいて、パワー君は彼女に恋をしちゃうんですね。

この映画は、アメリカのコメディによくある「負け犬な人生を歩んできたものが負け犬を返上する物語」として描かれてゆきます。主人公パワー君は見るからにイケてないエア・ドラム・オタク、ブルーカラーで家はビンボ、自分の部屋さえ民宿として貸し出している始末。彼の父ちゃんはあまりに安い賃金にストを起こしますが因業な経営者によってスト破りが行われ、ボコボコにされて病院送り。一方パワー君のエア・ドラム仲間や、下宿先のおじさんおばさんはというと、殆どが人種的マイノリティ。パワー君が好きになっちゃった彼女は耳の聞こえない身障者でその母親は新興宗教かぶれ。エア・ドラムのチーム・リーダーなどは両腕の無い黒人です。つまり誰も彼も社会的弱者や社会の底辺で生きている人たちばかりなんですね。

そんな彼らがエア・ドラムという、ある意味ちょっとトホホなジャンルでヒーローになろうと奮戦するのがまたペーソスを誘うんです。そして彼らが敵対するのは資本家である工場経営者だったり、そこのボンボンでもある気取り屋のロック・ミュージシャンだったりするんです。少々類型的な対立項ではありますが、敵としてはとてもわかりやすい。パワー君とヒロインとの恋もドラマを盛り上げます。耳が聞こえないことにより音楽を楽しむことの出来ないヒロインは、パワー君のエア・ドラムのアクションから音楽を感じ、彼に興味を持った、なんて泣かせるじゃありませんか。インディー・ムービーですが、結構な数のロック・ヒット曲をフィーチャーしているのも見所でしょう。映画を観ているうちにダサダサに思えたエア・ドラムがなんだか格好良く見えてくれるのがまた不思議な映画でした。

http://www.youtube.com/watch?v=GE0X0ypRvAQ:MOVIE